防災訓練

Disaster prevention training

家の近所の小学校で、近隣住民を対象として"都市直下型地震発生"を想定した防災訓練があった。都会の町で地域住民を集めて催しをするのも珍しいのだが、近所の3つぐらいの町会が合同で主催して開いたらしい。区役所の職員や警察・消防を呼んで、防災に関する話を聞いたり、消火活動や救急のデモンストレーションを見たりするという趣旨だった。


Disaster prevention training

まずは体育館に集められ、第一部として、ビデオを使った防災に関する講話を聞く。

11年前に起こった阪神・淡路大震災の事例を取り上げ、6000人以上が亡くなり悲惨な状態となった神戸の市街地と、多くの家屋が倒壊したにもかかわらず大部分の命が救われた淡路島の北淡町とを比べて、その差となった決め手は"近隣住民による早期の救出活動"だと解説する。

阪神・淡路大震災のときには、一時は約30万人が倒壊家屋の下敷きになったそうで、亡くなった6000人余りを除いた20万人以上が生きて助けられたのだが、そのうち自力で這い出して助かった人が約3割、家族に助け出されたのが約3割、近所の人に助け出されたのが約3割。消防や警察、自衛隊など公的な救助はわずか1.7%だという。

これほどさように、非常時には公的な救助活動はほとんど期待できない。自分たちの身を守るのは、地域住民お互いの協力によるしかないと呼びかけ、参加者への意識付けをした。

第二部は、校庭で消火器による消火訓練(これは強風により実際には実施できなかった)や、救急隊員によるCPRの講習会や三角巾を使った包帯法・止血法などの実演があった。

AED training kit

これは、AED(Automatic External Defibrillator; 自動外部除細動器)の演習。AEDとは、心室細動などで心臓が止まった傷病者に対して、心臓に電気ショックを与えて心臓を蘇生させる装置で、その場に居合わせた人が誰でも使えるように操作を簡略化したもの。このブログでも以前書いたことがある。最近になって医師以外の一般人でも使ってよいことになった。僕は3年前に救急法を習いに行ったことがあるのだけれど、そのときはまだ解禁されていなかったので、AEDは見たことがない。なので、今回が始めての体験。

粘着性の電極パッドを2枚、傷病者の心臓をはさむように、右胸と左脇腹に貼り、AEDのスイッチを入れると、AEDが勝手に心電図を測定し、電気ショックを与える必要性の有無をAEDが判断し、操作者に音声で伝えるようになっている。電気ショックを与える必要があるときは、ボタンを押すと電流が傷病者の心臓めがけて流れ、心臓を刺激して鼓動を促すようになっている。

駅や空港などの公共施設で順次配備が進められており、昨年の愛知万博の際には3名の命がこれで助かったという。

ただ、粘着パッドの粘着力が強すぎるので、実際に使うときに、誤って衣服などに貼りついてしまったら剥がすのに手間取ってパニックになりそうな気がするのだが、そこは改良の余地ありといったところか。

Water purifier

これは水道が止まったときに備え、川の水などを濾過して飲み水にする装置。今回は学校のプールの水を使って実演していた。水が出てくるポンプは自家用エンジンで駆動するようになっているのだが、エンジンが使えなくなったときには黒いレバーを前後させて井戸の水を出すように水を出すこともできる。

ただ、使用法はそう簡単なものではなく、またそうそう滅多に使うものでもないので、今回のデモの職員も事前に説明書を見ながら準備したという。実際に使う場面にそこまで悠長なことができるかどうかが課題だ。それよりも、発展途上国などの、安全な飲み水が確保できない地域でよく使われる、薬を入れて飲料水をつくれる浄水剤を配備するほうが手軽で良いのではないかと感じた。

非常時には、SOSを出せない地域には公的機関は誰も救助に来てくれない。そのため、地域の住民が自発的に情報収集をして集約し、どこが救助が必要かを自分たちで把握することが重要だという。そういえば、阪神大震災のときは、確か近所の子供たち(特に中高生あたり)が率先して近所の様子を見に行ってたように思う。別に誰に指示されたわけでもないのに、友達の様子などが気になったのだろうけど、自転車でそこかしこ走り回って、「△△のエリアは家が軒並み倒壊していた」「●●のマンションは1階部分が完全に潰れて、生き埋めになった親を子供が外から泣きながら呼んでいた」とか、自発的に情報をあげていたような気がする。第一部の講話の終わりに質疑応答の時間があったので手を挙げ、自分の被災体験をまじえてそのことに触れてみた。このあたりの住民は災害らしい災害に遭った経験がほとんどない人たちばかりで、"被災者の生々しい声"はかなりのインパクトがあったようだ。あとから、町内会長さんみたいな人たちが来て、「ぜひうちの町会に入ってお知恵をお貸しください」なんてお誘いまで受けてしまった。

Alpha rice for emergency supply

帰りぎわに、アルファ米で炊いた炊き込みご飯の弁当と乾パンを記念にもらった。乾パンは練馬区の備蓄食糧で、賞味期限が迫ってきたために今回放出したのだろう。

アルファ米は、水を入れるだけで炊かなくてもご飯がつくれるように加工された米。といっても普通の米と味はほとんど変わらない。米を炊くのが面倒くさい時はこれで十分だ。

乾パンといえば、昔から帝国陸軍などで使われていて、今でも日本の備蓄食糧の代名詞みたいなものだが、ここのサイトによると、毎日食べ続けても飽きが来ないように余分な味付けをあえて施さず、米飯に匹敵する食べやすさと栄養分を備えた個人携行用の非常食として長い時間と伝統をかけて研究し尽くされて作られた究極の保存食なんだとか。今までちょっとバカにしていたけど、少しは有り難みがわかった。

今回もらった乾パンは北陸製菓製。レスキュー隊をモデルとしたリアルフィギュアを同梱した「レスキュー119」を乾パンとともに発売しているメーカーだそうで、軍事マニアには有名らしい。

さて今回の講話では警察や消防や区が地震のときの行動ガイドのようなものを配ってまで住民に啓蒙していたのだが、一つ気になったのが、それらのガイドブックが日本語しかないということ。情報を収集したり発信したりするのは重要だが、それらはすべて日本語のわかる人のためのもので、日本語の不自由な人は、情報から取り残される危険性がある。神戸の震災のときにも、それが問題になった。外国人への情報提供手段はどのように考えているのか。

さきの質疑応答の時間にそのこともあわせて指摘したところ、区としては、災害時に特別なサポートが必要な高齢者や障碍者らと同じ"災害時要援護者"というカテゴリに外国人も分類しているものの、具体的な対策というのは何もとれていない状態なのだという。外国人にまで思いを致せる発想の出来る人が行政には少ないということなのだろうが、かりにも首都で国際都市でもある東京では、施策を打つときはグローバルな視点をもってほしいと、強く思った。