8月31日に青山一丁目のNHK文化センターで近江友里恵さんの講演会があったので行ってきました。こちらのエントリにも書いたように、私は近江友里恵アナウンサーのファンで、一昨年には名古屋での講演会に出かけていったことがあります。今回は東京で行きやすいので、受講募集があったときに速攻で申し込みました。
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一番前の座席で
NHK文化センターには朝8時半に着きました。開始は10時半なのですが、近江さんのトークライブなのでもう人はならんでるだろう、ひょっとしたら徹夜組とかもいたりするかもとか思ったりしたんですが、誰もいませんでした。入口に張り紙がしてあり、近江アナウンサーの講座の受講生はここからならぶように書かれていました。
ちょっと肩すかしをくらった気分でいると、数分後に、男性がやってきました。その男性は私にあいさつしてきました。開場まで時間もだいぶあり、ほかに誰もいなかったので、しばらくその人とお話していました。なんでもほかのアナウンサーや気象予報士の講演会などにも出てるんだとか。
9時20分になると、入口が開き、NHK文化センターの職員がやってきました。職員につれられて、講演が開かれる「グランルームII」という教室の入口のとびらの前までつれてゆかれ、10時にとびらが開くまでそこであらためてならぶようにいわれました。この時点でならんでいたのは10人たらずでした。
10時になると、とびらが開き、中に入ると受付があって、女性職員が1人すわっていました。その女性が、入ってくる一人々々の名前をきき、登録者リストにのっている名前かどうかチェックするという形式でした。
座席は自由席で、先着順ですきな席にすわれるようになっていました。私は一番乗りしてしまったので、近江さんが立つ演台の真ん前の場所を陣取りました。受付開始時点では10人ほどしかきていませんでしたが、開始時刻になると、150席あった座席は8割がたうまりました。聴衆の年齢層はまちまちで、男女半々ぐらいでした。
職員からのかんたんな諸注意があったあと、10時30分に近江さんが入ってきました。名古屋のときは最後列の座席だったのでよくみえなかったのですが、今回はなまの近江さんがはっきりみえました。当然ですがテレビでみるとおりの姿で、小顔で小柄、細身できゃしゃな感じにみえました。黒地に、小さい赤の菱形と大きな濃紺の菱形のパターンのノースリーブのワンピースを着ていました。みた目はきゃしゃなのですがさすがはアナウンサー、トークは滑舌よくはっきりとした口調でした。
採用試験をしてくれたのがNHKだけだった
トークライブのはじまりは自分の就職活動の話からでした。放送局以外にも、銀行やメーカーなどいろいろ興味があったという近江さん。就職活動をはじめた2011年4月は、ちょうど東日本大震災の発生直後で、東北はもちろん、東京も計画停電があったりしたころでした。もちろん企業も大混乱におちいってしまい、そうしていっせいに採用がストップになってしまったということでした。
「そんななか、4月1日から採用試験をしてくれたのがNHKだけだったんですね。当時は民放各社も東日本大震災のニュースしか放送していなかったんですけど、こういうときには、やっぱりNHKを見るなーと思いました。人の命や財産を守る放送ってすごく大事だなーと認識しまして、NHKに行こうと覚悟を決めました」
アナウンサーに必要なことはすべて地方局で学んだ
NHKに入局して、2016年から2018年にかけては、「NHKニュース おはよう日本」や「ブラタモリ」で活躍し、そして2018年4月からは博多華丸・大吉さんと朝の情報番組「あさイチ」のMCをしている近江さんですが、その原点は新人時代の地方局で学んだことにあるとのことでした。
「地方局での直属の上司は秋野由美子アナウンサーだったんですけど、とってもまじめでこつこつ仕事をする方でした。いつもいわれていたのが、『また一緒に仕事をしたいと思われる人に』『常に謙虚に』ということでした。『テレビ局の仕事はひとりではぜったいにできない仕事で、たくさんのスタッフの方や、みてくれている方がいるからできること。だからこそ、また一緒に仕事をしたい、またみたいと思われる人にならないとだめですよ』とくりかえし教わりました」
「『意味のない仕事はない』ということも教わりました。とくに地方局は東京とちがって人がすくないので、ADさんが出演者を控え室につれていったり、お弁当や車の手配をしてくれたりなんてことはできなくて、そういうこともアナウンサーもやらないとまわっていかないんです。そういう、雑用といってはいけないですけど、小さな小さな仕事の積み重ねで、出演者もきもちよく出演してもらえて、大きな仕事がうまくいくことにつながるということを学びました」
支えてくれた人たち
次に、近江さんが「あさイチ」のMCを前任の有働由美子アナウンサーから引き継ぐときのことを語りました。「初めてお話をいただいたときは、『ぜったいムリムリムリムリ、ほんとやめて下さい』って思いました。有働さんのあとなんて、プレッシャーとか、日本中からの批判で、ボコボコにされて、サンドバッグになっちゃって、押しつぶされると思って、不安でいっぱいでした」
そんな近江さんの背中を押してくれた人たちもたくさんいたと語ります。
「タモリさんからは、『頑張らなくていいよ。ミスしたって反省しちゃいけない。月曜日から金曜日まで帯番組をやるのに、頑張ってたら体がもたない。毎回反省してたら心がもたない。おんなじことは二度とおきないんだから、気楽にいくのがだいじだよ』と言ってくださいました。それから、上田早苗アナウンス室長からは、『有働さんみたいにできるなんて誰も思ってないから。朝ドラのあとの“もうひとつの朝ドラ”みたいに、失敗して、もがきながら、すこしずつ成長していく姿を視聴者の方々は期待してるんじゃないかしら。朝ドラは女性の成功物語。もうひとつの、あなたの朝ドラができたらいいと思ってるよ』といわれました」
こうした人たちの支えとアドバイスのおかげか、近江さんの最初の不安は杞憂に終わったようです。博多華丸・大吉さんとMCをはじめてから、朝の時間帯の視聴率はコンスタントに10%台をキープしています。
「タモリさんは『華丸・大吉はじょうずだからね、もう、たよっちゃえばだいじょうぶだよ』とおっしゃってくれました」とのこと。ブラタモリを辞めてから1年半になりますが、タモリさんは近江さんの人生観にかなり影響をあたえているのがみてとれました。近江さんがタモリさんから学んだこととして、次のようなことを紹介していました。
- すぐに結論を出さなくていい。世の中、答えをひとつに導き出せることばかりではない。すぐに結論をまとめようとせず、疑問があったらそのままにして、べつの機会にまた考えつづけるようにすれば、もっといい答えが出せるかもしれない。
- 寄り道は面白い。ハプニングのある番組のほうが、予定調和のものより面白い。
- 友だちは100人もいらない。信頼できる友だちが数人いれば、それでいいじゃないか。
- 遊ぶように仕事をする。頑張りすぎないで、呼吸をするように自然体で仕事をするのがだいじだよ。
タモリさんは「笑っていいとも!」の司会をひきうけるにあたって、スタッフに一つだけ条件を出したそうで、それが「反省会をしない」ということだったそうです。帯番組でいちいち反省していたら身がもたない、だから反省会だけはやめましょうと。それが司会をひきうける条件だといって、30年以上やってきたとのことでした。その影響から、「あさイチ」でも、番組放映後の反省会はやらないそうです。
みんなで一緒に考えて悩み苦しむ
近江さんがMCをしている「あさイチ」は、おもに40代の女性をターゲットにした番組で、女性の見たい知りたい悩みに向き合うことを目的にしています。「生放送される『ほとんど青い』スタジオは、古いヨーロッパの建物にかこまれた朝の市場をイメージしてデザインされているんだそうです。その中庭の広場で、いろんな出し物がでて、そこにいろんな出演者があつまって、にぎやかに、という世界観がこめられているんだそうです」
また「あさイチ」はほかのNHKの番組と違って、いろいろと先進的なこころみがあると強調していました。出演者やスタッフがだいじにしているのは「視聴者目線」というマインド。放映中、視聴者からのFAXやメールを受けつけており、リアルタイムのフィードバックを受けています。ディレクターやアナウンサーが「このテーマはこうであるべき」という特別なメッセージをこめて番組をつくっていても、視聴者からはちがったコメントや予想外の提言があったりすることもあるそうです。
「視聴者の方からのご意見はほんとうに貴重です」と近江さんはいいます。「そういうご意見をいただいて、番組に反映させていくことで、より番組に深みが出ると思います。みんなで一緒に、井戸端会議をして、考えて悩んだり苦しんだりして、いろんなアイディアがうまれるような番組になればいいなと思っています」
そんな近江さんが「あさイチ」を通じて目指したいこととして、「多様性を尊重する」ことをあげていました。働いている女性だけでなく、専業主婦にも悩みがあるということに気づいたといいます。
「いまは『あさイチ』がはじまった2010年のころとはちがう世の中になっているように思います。女性が外で働くことについて特集をしたときに、専業主婦の方から『専業主婦の生き方を否定されるようでつらい』とご意見がきたことがあるんです。ぜんぜんそんなつもりじゃないし、専業主婦もりっぱな生き方だと私は思っているんですが、女性の悩みっていうのも9年前とはちがってきているんだなあと感じました。どんな生き方であっても、人に迷惑をかけるわけじゃなければ、尊重されるような、やさしい、寛容な社会になってほしいというねがいをこめて、番組を放送しています。性別関係なく、性的指向がどうであっても、みんなが自分らしく生きられるような、そんな世の中になったらいいなというふうに思います」
またこんなこともいいました。「2010年から、環境もすごく変わっています。自然災害も、いぜんよりほんとにふえてると思うし、なかなか、それをすぐにくいとめるのはむずかしいと思うんですけれども、知恵と工夫でそういった苦難ものりこえて、次の世代のことを考えて、きれいな地球を渡してあげたいな、と。自分たちさえよければいいっていうんじゃなくて、たとえばプラスチックを使わずに生活するにはどんな工夫ができるんだろうとか、そういった生活者目線で、みなさんのお知恵もお借りしながら、いろんなアイディアを考えていけたらいいなと思っています」
これからの番組、そしてテレビについて
MCとしていま絶賛苦闘中のこともあげていました。
- 教える、ではなく一緒に考える
- 時間や台本にしばられない本音トーク
- 間接的に伝えるだけでなく、問題解決
- 人前に出ることに、もうちょっと慣れる
「『あさイチ』2年目、まだまだしっかり司会がつとめられているとはぜんぜん思っていません。テレビって、こんな問題がありますとか、こんな人が頑張ってますとか、そういうことを伝えるだけで終わってしまってるんじゃないか、ほんとにこれが問題の解決につながっているのかって、いつも自分の中でモヤモヤし続けているんです。なにかもっと、解決にいたるまで、密着してずっと継続して取材していくとか、そういうことができたらいいなーと思います」
最後にテレビ論について、「これからのメディアのあり方や、テレビってこれからどうなるのか、そういうことも、若いディレクターや私自身もすごく、悩んでおります。でも、テレビっていう媒体そのものはもしかしたら、このさき形を変えて、なくなっちゃうかもしれないですけど、人ってやっぱり、なにか情報を取ってきて、情報を伝えることによって生活をなりたたせている生き物だと思うので、形が変わったとしても、情報を伝えるっている仕事はなくならないと思うので、そういうことを地道にこつこつ頑張っていきたいと思っています」と話していました。
結びに、「私の好きな言葉が、井上ひさしさんの『むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことは、あくまでゆかいに』という言葉、まさにこういう番組ができたら、ほんとに理想だなと思います。こんな番組を目指して、これからも頑張っていきたいです」とのお話で、講演をしめくくりました。
質疑応答のパートも今回は活発でした。女性からの質問として、「有名になられたいま、電車に乗ったりすることってあるんでしょうか。それから、アナウンサーの方って、9時54分とか、時間ぴったりに進行したり、終わったり、どうやったらできるんでしょうか。お仕事のストレスはどうやって解消されてるんでしょうか」と訊かれた近江さん、「電車、乗ります。大好きです。最近『あさイチ』で、ファイナンシャルプランナーの方に家計相談にのってもらったりして、節約についての意識が高まりまして、電車に乗るときは、普通の回数券と、オフピーク回数券と、土日祝だけ使える回数券の3種類を使いわけて節約しております。時間ぴったりに終えるコツは、アドリブっていうのはアナウンサーとしてよくいわれるんですけど、なかなか最初のうちはできないので、たとえば10秒あったらこれを言う、15秒だったらこれを言う、20秒だったらこうする、30秒だったら…というふうに、尺にあわせて言うことをあらかじめシミュレーションしておくと、だんだんなれてくるので、そういう準備をしてます。ストレス発散法は、家事が好きなので、皿洗いとか、洗濯とか、無心になれる時間をたいせつにしています。そうすると、『なんだ、生活のほうがほんらい仕事よりもだいじじゃないか』とあらためてきづかされて、悩みも忘れられると思います」と答えていました。
久米宏さんとのプレミアムトークのことを質問されたときは、「とっても緊張しました。でも、楽しみな気持ちのほうがつよかったです。黒柳徹子さんとの『ザ・ベストテン』私はもちろん本放送はみてなかったですが、そのとき語られた平和への思いとか、どういう思いでテレビにむきあってこられたのかとか、先輩アナウンサーにお話をうかがってみたいという気持ちでした。NHKに批判的なのはもちろん存じ上げていたんですが、たぶんそれは、愛情の裏返しで、もっと頑張ってほしいと思ってるから厳しいご意見をおっしゃるんだと思っていたので、鼓舞していただきたい、叱咤激励していただきたいという気持ちで、楽しみにしていました」とのことでした。
最後の男性の質問は、「この先何を目指していくのか、今のお気持ちをきかせてください」。これは私が名古屋でした質問と同じだなと思ってたら、近江さんの答えも同じでした。「あー、私も今それすごく迷っていて、どうしたらいいでしょうか。みなさんに相談にのってほしいぐらいです。うーん、そうですね、せっかくタモリさんに『近江ちゃんは自然体がいいよね』っておっしゃっていただけたので、そういう自分らしさをいかせるような仕事があればチャレンジしてみたいですし、そういうタイミングがおとずれるまで、流れに身をまかせて待ってみようかなーって思ってます。このさきどうなるかわかりませんが、いまは『あさイチ』のことでせいいっぱいなので、それを毎日いっしょうけんめい頑張るぞっということだけですね。見守っていただければと思います」
12時終了予定が、6分ほど押して、トークライブが終了しました。近江さんの目の前にすわれて大満足でした。
公演中に動画をブルーレイで上映する場面がありましたが、BDプレーヤーを操作する職員の方が操作になれておらず、てまどってしばらく動画が出てこないハプニングがありました。そのときの近江さんのようすを観察していましたが、一瞬たりともいらだった表情をみせることなく、うまくいくまで終始、おだやかな目で見守って待っていました。ふだんどうとりつくろっていても、こういうところで人の本性がみえてくるものですが、近江さんは本当にやさしい、温かい性格の方なのだとあらためて感じ入りました。近江さんの強みは、いつわりのないおだやかで誠実な姿勢で、それがまわりの人を動かし、力のある人を引き寄せ、結果として成功へとつながっていくのだと認識した次第でした。
和久田麻由子さんはTVでみるとおり完璧
同年代のアナウンサーでライバルの人はいるかという質問があり、それにたいして近江さんは、和久田麻由子アナウンサーのことを意識していると答えていました。
「和久田さんとはよく食事に行くんですが、もう大好きで、TVでみるとおり完璧で。勉強もできるし、やさしいし、性格もいいし。欠点といえば、欠点がないのが欠点ですね」
まさにこのトークライブの日に、和久田さんは結婚式をあげて披露宴をしたと「フライデー」に報じられていました。そこに近江さんも出ていたかどうかは不明ですが、近江さんもやさしい人なのできっとお祝いは言ったことでしょう。
ずっとニュースキャスターひとすじの和久田さんに対して、生活情報番組のMCの近江さん。生活者目線から世の中に訴えかけたり、社会を動かしていける稀有な立場だと思います。大所高所にいるわけではない、家庭を守っている人、子育てしている人、普通に毎日働く人、そういった名もなき庶民からの声なき声を社会に大きく届けられる立場として、近江さんに寄せられる期待はよりいっそう大きくなるでしょう。大いに活躍し、朝ドラの最終回のように、幸せと成功をつかみとってほしいと願ってやみません。
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