群馬県安中市、碓氷川のほとりにある、磯部温泉。「舌切雀のお宿」として知られる旅館だ。
舌切雀の童話は、小さい頃に絵本で読み聞かせられた記憶はあったものの、なんせ小さい頃のことだったので、どんな話だったか細かいところは忘れてしまっていたのだが、あらためて絵本を読んでみたら、こんな話だった。
むかぁ~し、むかし、(以下市原悦子調で)あるところに、おじいさんとおばあさんがおったそうじゃ。
おじいさんとおばあさんは、あるとき、小すずめをひろってきて、わが子のようにかわいがっておった。
ある日、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行っておったら、大きな桃がどんぶらこ~どんぶらこ……じゃなくて、小すずめは、遊び相手が誰もいなくなって何もすることがなく、たまたま、おばあさんが米で洗濯糊を作って家に置いておったのを見つけて、それをすっかりなめて食べてしまったそうじゃ。
帰ってきたおばあさん、それを知ってたいそう腹を立て、米をなめた小すずめの舌を、糸切りばさみでチョッキンと切って、家から追い出してしまったそうじゃ。
おじいさんは、その話を聞いてたいそう心を痛め、山へ入って、「舌切り雀のお宿はどこだ」と言いながら、小すずめを探しに行ったそうじゃ。
やがて小すずめの巣を探し当てたおじいさん。小すずめはすっかり元気になっておった。小すずめの一家は、小すずめを心配して探しに来てくれたことにすっかり感謝して、おじいさんにご馳走をすすめ、鯛やひらめの舞い踊り、じゃなかった、まあとにかく歓待したそうじゃ。
帰り際に、お土産の玉手箱、じゃなくて「小さなつづらと大きなつづら、お好きなほうをお持ちください」と言って、おじいさんにすすめたところ、おじいさんは、「わたしゃ年寄りで力がない。小さいほうのつづらで十分です」と、小さなつづらを持って帰ったんじゃ。家に帰って開けてみると、金銀珊瑚の宝物がざーっくざく。
ところが、欲の張ったおばあさんは、「どうせじゃったら大きなつづらを持って帰ったほうが、もっといっぱい宝物がもらえたのに。よし、わしがもう一度小すずめの巣に行ってきて、大きなつづらをもらってこよう」と、もう一度巣に行って、今度は大きなつづらをもらった。家に持って帰ろうにも、重くて重くて、途中でたまらず開けると、出てきたのはおばけがいーっぱい、おばあさんは腰を抜かしてしまったとさ。
おしまい。
欲を出すと痛い目を見る、謙虚が一番、といういかにも日本的な教訓を含んだ童話なのだが、この小すずめの一家は、自分を心配して訪ねてきてくれたおじいさんに対しても、つづらの片方におばけを入れておじいさんの前に出していたのかな。たまたまこのおじいさんが小さいほうを持って帰ってくれたから良かったものの、もし「大きなつづらのほうをいただきます」とか「どうせなら、両方持って帰ります」とか言ったら、どうなってただろう。やっぱり、おじいさんが相手のときは、どっちのつづらにも宝物を入れて持たせようとしたのかな。逆に、おばあさんが相手のときは、両方ともおばけ入りにしたんだろうな。だって、小すずめからしたら、自分の舌を切り取った憎っくき相手。なんとか復讐してやろうと思っても無理ないと思うけど。
大人になってしまうと、こんなふうに考えてみたりする。いやー心が汚くなったものだ。舌切雀のお宿で温泉につかってマターリして童心に返らねば。