香港大仏は世界一の大きさだという。ランタウ島に寶蓮寺(ポーリン寺)という禅寺があって、そこに天壇大佛という露天の大仏さまが座っているのだそうだ。梅窩から近そうだし、空港に戻るまでに立ち寄ってみようと思って、この朝は早めにホテルをチェックアウトした。
梅窩(ムイウォー)から昂平(ゴンピン)行きのバスに乗れば、途中に寶蓮寺のバス停があり、そこで降りると大仏まで行けるようなのだが、いかんせんバスの本数が少なく、1時間~1時間半に1本というありさま。この日は15時の飛行機に乗らなければならない。国際線なので、少なくとも3時間前までには空港に到着しておきたい。天壇大佛が開くのは10時からなので、30分ほど大仏を見たとして、10時半に寶蓮寺を出て梅窩に戻り、そのあと機場行きのバスに乗り換えて空港に着かなければならない。梅窩~機場間の所要時間は約40分。寶蓮寺~梅窩間はよくわからないが、かりに30分を見込んだとしても、バスの本数から考えて、寶蓮寺から空港まで1時間半で移動するというのはどう考えても無理がある。
ということで、今回は残念ながら大仏を見るのは断念し、そのまま梅窩から機場行きのバスに乗って空港へ向かった。
バス停を出るといきなりアップダウンの連続である。ランタウ等は急峻な山が多く、クルマが1台すれ違えるかどうかというような狭い道の急な上り坂を超低速で走る。道路もコンクリート舗装で、バスはガタガタ揺れる。道端には牛が放し飼いで歩いていたりしてなかなか牧歌的な風景である。
30分ほどこのようにして走っていると、東涌(トンチュン)の街に出た。ここはニュータウンであり、今までとは打って変わって整備された道路と高層住宅が現れる。
東涌を10分ほど走っていると、機場の敷地内に入る。この敷地内をぐるぐると走り回り、ようやくバスの降り場に着いた。
空港に着いたのは朝の9時半ごろ。バスターミナルからエレベーターでいっきに7階の出発ロビーに上がる。さっさとカウンターでチェックインしようと思ったのだが、チェックイン開始時間は12時50分からだという。すっかり暇になってしまい、空港の建物内をぶらぶらしたり、土産物屋をはしごしたりした。
売店で新聞や絵葉書などを買う。だいたい香港の新聞は、一面トップに事故処理現場の写真を載せるような超過激な作りになっている(さすがに死体の部分だけはモザイクがかかっていたが)ものなのだが、この日の新聞の一面。
広東語なので正確にはよくわからないが、深圳に行った香港人の旅行者の男性が、現地の女性に麻酔薬を仕掛けられて殺され、金を奪われたとか書いてある。取締りの緩い中国本土ではこの種の麻酔薬が簡単に手に入るそうで、ターゲットの飲み物などに混入されて昏睡状態にさせ、その隙に金を奪うという手口が、これまでわかっているだけでも5件発生したのだという。まことに深圳は何が起こるかわからない。行かなくて正解だった。
空港の外には、中華人民共和国の国旗がはためいていた。もう香港も中国の一部なのである。ただ、中国本土ではなく香港を旅行先に選んだのは正解だったかもしれない。文革の嵐ですっかり変質してしまった本土よりも、香港のほうが古き良き時代の中国情緒に触れることができたのではないだろうか。
土産を買っていると、すっかり昼どきになってしまったので、上の階にあった上海点心レストランで、最後の本場中国料理を味わう。もうすっかり胃が重苦しくなっていたので、粥と肉饅だけですませた。それでも青島ビールだけはしっかり頂いたのだが。
昼食を終えると、全日空のカウンターが開いたので、チェックインして搭乗券をもらい、そのまま出境手続きをすませて手荷物検査を受けた。ここの手荷物検査もアメリカ並みに厳しく、金属探知ゲートでひっかかった僕はすぐさま係員に脇へ寄せられ、両手を挙げさせられて身体のすみずみまで金属探知棒でチェックされた。
ようやく出境エリアに出たので、免税店に立ち寄ってお買い物を始めた。これまで港内では(HSBCでの預金を除いて)交通費含めても1000ドルも使わなかったのだが、ここで財布の紐が一気に緩む!免税品だけで1500ドルぐらい使ったんじゃないかな。買ったのも怪しい高粱酒や霊芝酒みたいなものばっかりだった……。
香港の空港はターミナルビルが1つしかなく、出境手続きの手前まではこじんまりしているのだが、出境エリアの内部は異様に広い。免税品店も数が多く、さんざん買い物をすませてから出発ゲートにたどり着く頃にはすっかり疲れ果ててしまった。そういう人たちを見越して出発ゲート近くに「足ツボマッサージ」の店が用意してあるというところも、香港らしい商魂か。
ゲートのベンチに腰掛けていると、空港職員のお姉さんが寄ってきて、アンケートを取らせてほしいと言ってきた。内容は、今回の訪港の目的、訪問した場所、利用した交通機関、港内で使った金額、訪問した観光地の全体的な印象(5段階評価)などなど、10分程度のものだったが、こうやって少しでも香港を良くしていくために観光客から聞き取り調査を熱心にするという姿勢は、好感の持てるものだった。
15時前にゲートがオープンして搭乗が始まった。15時25分に飛行機がブロックアウトしたのだが、離陸待ちの飛行機がタクシーウェイを数珠繋ぎに並んでいて、結局離陸したのはブロックアウトから20分後のこと。しかしそのあとの飛行はとても速く、あっという間に台湾を通過し、東シナ海を抜け、鹿児島~土佐清水~串本と通り過ぎて、3時間半ほどで成田近辺にたどり着いた。機内食を食べて一息ついたら、もうベルトサインが点灯し、あれよあれよという間に成田空港に着陸してしまった。
入国審査~税関検査はあっという間に通過し、着陸から15分もしないうちに到着ロビーから外に出られたのだが、それから次の成田エクスプレスまで1時間ほど待たされ、結局帰宅したのは成田に着いてから3時間後のことだった。
非常に充実した今回の旅であったが、やはり2泊3日というのは厳しい。もう1日欲しいところだった。しかし香港の様子もわかり、携帯も買い銀行口座もできて香港での足がかりも出来たということで、今回の訪港はそれなりに意義のあるものだったと思う。日本の延長のように気軽に行くことができることがわかったので、また訪れてみたいものである。もちろん次回は大仏を見るのだ。