夢一夜

朝の通勤電車。僕はつり革に両手でつかまって立っていた。

左隣には、通学中の女子高生が立っていた。僕はその女子高生とふとしたことで目が合ってしまった。肘か何かが当たったのかもしれない。すると、その女子高生は急に顔色を変え、怒ったような顔をして電車の運転席に向かっていった。僕は慌てた。ひょっとしたら、あの女子高生は僕のことを痴漢か何かと勘違いして、乗務員を呼びに行ったのかもしれない。このままだと痴漢の濡れ衣を着せられてしまう!

僕は前に立っていたオジサンに目撃者になってもらおうと考え、「今、僕、あの子になんにもしてないですよね! ずっと両手はつり革につかまってたし、大丈夫ですよね?」と話しかけた。いざというときはこの人に証言してもらおうと思った。オジサンは「ああ、そうだよ。大丈夫だよ」と同意してくれた。

しばらくして、運転席から乗務員を連れて女子高生が戻ってきた。乗務員はすごく険しい表情で僕のほうを見ている。絶体絶命。でもいざというときの目撃者も確保できたし、あとはなるようになれ、そんな覚悟を決めると、乗務員と女子高生の2人は、急ににこやかな表情に変わって僕に親しげに話しかけてきた。どうやら誤解が解けたらしい。ふーっ、危ないところだった。

……そこで、目が覚めた。寝汗をびっしょりかいていた。

その日の朝、3人の警察官にわきを固められて、ズボンの背中のところをがっちりと掴まれたまま連行されていく若い兄ちゃんを見た。痴漢をやったんだったら、たのむから氏んでくれ。オマエみたいなヤツのせいで、こっちは毎日肩身の狭い思いで電車に乗ってるんだ。僕は本気で、そう思った。


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