兄貴と弟分

泥棒の兄貴と弟分が話をしている。
「おう、どうだい、最近」
「兄貴ィ、さっぱりです。最近、不景気で、シノギもろくにできやしません」
「んなことあるめえよ。カネなんてあるところにはたーんとうなってるもんさ。退職金かかえてる年寄りなんて、大金持て余してンだろうよ。そういう奴から、奪っちまうのよ」
「どうやってやるんですか」
「銀行の機械とか、デパートの機械とかでカネ下ろしたところ、狙っちまえばいいのよ」
「そううまくいくもんですかい。第一、そういう機械じゃ、防犯カメラだってあるだろうし、すぐ足ついちまいますよ」
「女使やあいいのよ。それも子連れの女がいいな。よもやガキ連れた女が強盗するなんて、誰も思わねえだろうよ」
「だけど、女に強盗なんてできるんですかい」
「なあに、抵抗されたら、『泥棒!』とでも叫んでやりゃいいのよ。そしたら周りの正義感強い連中がわらわら寄ってきて、そのジイサンを捕まえてくれるさ。日本人ってのはフェミニストが多いからよ、女のほうが被害者みたいにしてたら、みんな女の味方さ」
「なるほど、さすが兄貴っすね」
「んで、どさくさにまぎれて、ジイサンが下ろしたカネでもつかんで適当にトンズラこきゃ、大成功だ」
「でも、途中で警察が来たりしたら厄介じゃねえすか」
「警察が来たって、状況からすりゃとっ捕まるのはジイサンのほうさ。女の言い分とジイサンの言い分じゃ、どう考えても女のほうを信じるって。女の味方して、ジイサンが逃げないように押さえつけててくれるだろうよ。うまくすりゃ、絞め殺してくれるかもしれねえぜ。なぁに、三重県警ならそのぐらいやるんじゃねえか」
「だけど、そのジイサン、浮かばれねえな」
「なぁに、誰も責任なんて取りゃしねえんだから、気にすることねえって」
「防犯カメラに証拠が写ってるっしょ」
「警官が無抵抗の一般人をボコボコに殴り倒して制圧してるところなんか、警察が公開するかよ。そんなのマスコミの手に渡ったりしたら、えらいことだぜ。適当にもみ消して、オクラにするに決まってらあ。どうだい、これで完全犯罪だ」
「さすが兄貴、あったまいい!」
そこへやってきた三重県警の警察官。
「オイコラ、おまえたち! 良からぬこと考えてんじゃねえだろうな! 変なことしやがると、うつぶせにして後ろ手錠で床に20分間押し付けるぞ! 文句があるか! 文句があるならここに言え!


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