Category: Traveling 旅行

  • 香港高飛日記(其参)~大仏を見たかったが…~

    香港大仏は世界一の大きさだという。ランタウ島に寶蓮寺(ポーリン寺)という禅寺があって、そこに天壇大佛という露天の大仏さまが座っているのだそうだ。梅窩から近そうだし、空港に戻るまでに立ち寄ってみようと思って、この朝は早めにホテルをチェックアウトした。

    梅窩(ムイウォー)から昂平(ゴンピン)行きのバスに乗れば、途中に寶蓮寺のバス停があり、そこで降りると大仏まで行けるようなのだが、いかんせんバスの本数が少なく、1時間~1時間半に1本というありさま。この日は15時の飛行機に乗らなければならない。国際線なので、少なくとも3時間前までには空港に到着しておきたい。天壇大佛が開くのは10時からなので、30分ほど大仏を見たとして、10時半に寶蓮寺を出て梅窩に戻り、そのあと機場行きのバスに乗り換えて空港に着かなければならない。梅窩~機場間の所要時間は約40分。寶蓮寺~梅窩間はよくわからないが、かりに30分を見込んだとしても、バスの本数から考えて、寶蓮寺から空港まで1時間半で移動するというのはどう考えても無理がある。

    ということで、今回は残念ながら大仏を見るのは断念し、そのまま梅窩から機場行きのバスに乗って空港へ向かった。

    バス停を出るといきなりアップダウンの連続である。ランタウ等は急峻な山が多く、クルマが1台すれ違えるかどうかというような狭い道の急な上り坂を超低速で走る。道路もコンクリート舗装で、バスはガタガタ揺れる。道端には牛が放し飼いで歩いていたりしてなかなか牧歌的な風景である。

    30分ほどこのようにして走っていると、東涌(トンチュン)の街に出た。ここはニュータウンであり、今までとは打って変わって整備された道路と高層住宅が現れる。

    東涌を10分ほど走っていると、機場の敷地内に入る。この敷地内をぐるぐると走り回り、ようやくバスの降り場に着いた。

    空港に着いたのは朝の9時半ごろ。バスターミナルからエレベーターでいっきに7階の出発ロビーに上がる。さっさとカウンターでチェックインしようと思ったのだが、チェックイン開始時間は12時50分からだという。すっかり暇になってしまい、空港の建物内をぶらぶらしたり、土産物屋をはしごしたりした。

    売店で新聞や絵葉書などを買う。だいたい香港の新聞は、一面トップに事故処理現場の写真を載せるような超過激な作りになっている(さすがに死体の部分だけはモザイクがかかっていたが)ものなのだが、この日の新聞の一面。

    広東語なので正確にはよくわからないが、深圳に行った香港人の旅行者の男性が、現地の女性に麻酔薬を仕掛けられて殺され、金を奪われたとか書いてある。取締りの緩い中国本土ではこの種の麻酔薬が簡単に手に入るそうで、ターゲットの飲み物などに混入されて昏睡状態にさせ、その隙に金を奪うという手口が、これまでわかっているだけでも5件発生したのだという。まことに深圳は何が起こるかわからない。行かなくて正解だった。

    空港の外には、中華人民共和国の国旗がはためいていた。もう香港も中国の一部なのである。ただ、中国本土ではなく香港を旅行先に選んだのは正解だったかもしれない。文革の嵐ですっかり変質してしまった本土よりも、香港のほうが古き良き時代の中国情緒に触れることができたのではないだろうか。

    土産を買っていると、すっかり昼どきになってしまったので、上の階にあった上海点心レストランで、最後の本場中国料理を味わう。もうすっかり胃が重苦しくなっていたので、粥と肉饅だけですませた。それでも青島ビールだけはしっかり頂いたのだが。

    昼食を終えると、全日空のカウンターが開いたので、チェックインして搭乗券をもらい、そのまま出境手続きをすませて手荷物検査を受けた。ここの手荷物検査もアメリカ並みに厳しく、金属探知ゲートでひっかかった僕はすぐさま係員に脇へ寄せられ、両手を挙げさせられて身体のすみずみまで金属探知棒でチェックされた。

    ようやく出境エリアに出たので、免税店に立ち寄ってお買い物を始めた。これまで港内では(HSBCでの預金を除いて)交通費含めても1000ドルも使わなかったのだが、ここで財布の紐が一気に緩む!免税品だけで1500ドルぐらい使ったんじゃないかな。買ったのも怪しい高粱酒や霊芝酒みたいなものばっかりだった……。

    香港の空港はターミナルビルが1つしかなく、出境手続きの手前まではこじんまりしているのだが、出境エリアの内部は異様に広い。免税品店も数が多く、さんざん買い物をすませてから出発ゲートにたどり着く頃にはすっかり疲れ果ててしまった。そういう人たちを見越して出発ゲート近くに「足ツボマッサージ」の店が用意してあるというところも、香港らしい商魂か。

    ゲートのベンチに腰掛けていると、空港職員のお姉さんが寄ってきて、アンケートを取らせてほしいと言ってきた。内容は、今回の訪港の目的、訪問した場所、利用した交通機関、港内で使った金額、訪問した観光地の全体的な印象(5段階評価)などなど、10分程度のものだったが、こうやって少しでも香港を良くしていくために観光客から聞き取り調査を熱心にするという姿勢は、好感の持てるものだった。

    15時前にゲートがオープンして搭乗が始まった。15時25分に飛行機がブロックアウトしたのだが、離陸待ちの飛行機がタクシーウェイを数珠繋ぎに並んでいて、結局離陸したのはブロックアウトから20分後のこと。しかしそのあとの飛行はとても速く、あっという間に台湾を通過し、東シナ海を抜け、鹿児島~土佐清水~串本と通り過ぎて、3時間半ほどで成田近辺にたどり着いた。機内食を食べて一息ついたら、もうベルトサインが点灯し、あれよあれよという間に成田空港に着陸してしまった。

    入国審査~税関検査はあっという間に通過し、着陸から15分もしないうちに到着ロビーから外に出られたのだが、それから次の成田エクスプレスまで1時間ほど待たされ、結局帰宅したのは成田に着いてから3時間後のことだった。

    非常に充実した今回の旅であったが、やはり2泊3日というのは厳しい。もう1日欲しいところだった。しかし香港の様子もわかり、携帯も買い銀行口座もできて香港での足がかりも出来たということで、今回の訪港はそれなりに意義のあるものだったと思う。日本の延長のように気軽に行くことができることがわかったので、また訪れてみたいものである。もちろん次回は大仏を見るのだ。

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  • 香港高飛日記(其弐)~HSBC口座開設、黄大仙、尖沙咀~

    翌朝、ホテルの周辺を散歩してみる。のどかなビーチを犬を連れて散歩する人がいたりする。ここは香港とはいっても喧騒な雰囲気ではなく、千葉か和歌山の海の家といった感じ。

    Silvermine Beach

    ホテルの裏手を回ると、トタン張りのぼろぼろの家々が連なり、ばあさんが手押し車を押しながら道を歩いている。そして地元のおばちゃんが「ネイホー!」などと言いながらご近所に挨拶して回っている。ここにも、人々の日常の生活があった。

    さて今回の香港旅行の大きな目的は、香港の銀行に口座を開設することだ。香港は日本から一番近いオフショア地域と言われており、日本の銀行よりも税制面でメリットが大きいといわれている。また日本の銀行の格付けやひいては政府の信頼性などを考え合わせると、香港あたりに資産の一部を疎開させておくのも悪くないと思われる(まあ僕の「資産」などたかが知れているが)。

    香港にもいろいろ銀行があるが、一番代表的なものの1つは英国系の銀行であるHSBC(香港上海滙豐銀行)で、そこに「Easy Savings Account」という口座があり、外国人でもパスポートと住所を証明する書類があれば誰でも口座開設できる。5000HKD(約75000円)以上入れておけば口座維持手数料が免除されるし、インターネットバンキングも可能なので日本に戻ってからも中身をいじることが可能である。ATMカードも発行されるし海外送金制度を使えば日本からでも不自由なくお金の出し入れができるのだが、口座開設だけは香港に出向いて行わなければならないので、今回の訪港をきっかけに口座開設をすることにした。

    フェリーで梅窩(ムイウォー)から中環(Central)へ向かう。中環にそびえたつHSBCビルに入っていった。

    そこのATMでお金を下ろし、総額5000HKDを握り締めて入口に立っている受付のお兄さんに「I would like to open an Easy Savings Account.」と声をかけた。パスポートと住所を照明するものを見せるよう言われたので、持っていたアメリカの銀行の小切手帳の住所欄を示すと、「オッケイ」と言われて専用ブースへ案内された。

    ブースでは40歳ぐらいの女性が口座開設を担当した。「あなたは香港の住民ですか?」「香港で働いていますか?」などと質問してくる。いずれも違うと答えると、パスポートと小切手帳のほかに、「driver's license」を見せるよう言われた。日本の運転免許証でいいですか?と訊くと、それでいいという。免許証を出すと、それを受け取って免許証番号や住所欄などをチェックし、

    「小切手帳の銀行からのbank statementはありますか?」

    と訊いてきた。そんなものは用意して来ていない。すると、

    「本来なら見せてほしいところですが、パスポートと免許証を提示してくれたので、口座の開設は可能です」

    と、OKしてくれた。

    そのあとは口座開設用のフォームに指示されたことを書き込んでいく。名義人の名前から住所・電話番号に始まり、勤務先とその連絡先、平均月収、独身かどうか、今後の取引利用予定回数、月間予定預け入れ・引き出し金額、などを書いていった。中には「口座開設の目的」「資金の出所」なんていう欄もあって、なんて書いていいのか一瞬とまどったが、目的は「PERSONAL SAVINGS」、資金の出所は「MY OWN CASH」などと適当に書いておいたら、無事に受理された。

    担当の女性は書類を持ってブースを離れていき、しばらくして戻ってきて

    「ATMカードは登録した住所に後日郵送されます。有人窓口で引き出しなどの取引をするとその都度20ドルが手数料として差し引かれます。また残高が5000ドルを下回ると月40ドルの手数料が引かれます。それではこのあと反対側にあるカウンターに行って預け入れをしてきて下さい」

    と言って、A4版2~3枚ほどの説明書類と一緒に、真新しい通帳を渡してくれた。

    僕は礼を言って席を立ち、教えてもらった預け入れカウンターに向かった。カウンターがいっぱいあってどこに行けばいいか迷っていると、カウンター越しに行員のお姉さんが手招きしてきたので、そこへ行って5000ドル預金をしたい旨伝えると、手続きをしてくれた。

    無事に通帳に5000ドル分が記録され、僕の資産の一部は香港に残ることとなった。まあ5000ドルごときで資産もクソもないが。

    HSBCビルをあとにして、中環のスターフェリー乗り場に行き、香港名物のスターフェリーに乗って尖沙咀(チムサアチョイ)に行く。

    Bayside view

    尖沙咀のフェリーターミナルを降りて、すぐ前の星光行(Star House)ビルに入ってみる。中国風の独特の匂いが鼻を衝く中、PC関係のショップや中国料理店などが入っており、なかなか面白い。

    昼食どきになったので、そこの4Fにある「翠園大酒棲.(Jade Garden)」に入り、飲茶。やはり点心は油っぽくて、なかなか食べられない。美味いことは美味いのだが。ということでひたすら中国茶と青島ビールをガバガバ飲んでいた。

    食後は星光行ビルを出て、Salisbury Roadを東へ歩いてみた。左手にかの有名なペニンシュラ・ホテルが見えた。1泊2000HKD(約30000円)もする超高級ホテルである。正面には大きな噴水があり、石造りの立派な建物が威容を放っている。

    ペニンシュラ・ホテルを左に折れると、彌敦道(ネイザン・ロード)である。

    Nathan Road

    中環の整いぶりとは対照的に、この界隈はかなり猥雑な雰囲気である。重慶大廈(チョンキン・マンション)など、ビルの外壁がはがれおち、まるで解体中かと見まがうほど荒み切っている。怪しげなインド人やマレー人みたいなのがそこここに立っており、歩いていると声をかけてくる。なるほどこんなところで買い物袋いっぱい抱えて歩いていると狙われるわけだ。身の危険を感じ、さっさと地下鉄の入口から下に降りる。

    次なる目的地は黄大仙廟(ウォンタイシンミュウ)。かなり大きな道教の寺院とのこと。なかなか日本ではお目にかかれないものだし、ご利益のありそうなところに行って拝んで来るのも一興かと思って。

    尖沙咀から赤い地下鉄(荃灣線)で3駅行き、旺角駅まで行くとホームの向かいに緑の地下鉄(觀塘線)の乗り場があるので、そこで觀塘線に乗り換えて、黄大仙駅で降りる。駅の出口を上がると、すぐに黄大仙廟の入口になる。

    Wong Tai Sin Temple

    おじさん、おばさんから若い女の子まで、いろんな人たちがお参りに来ていた。門前で売っている長い線香の束のようなものを買って中に入り、参道の脇に置いてあるガラス張りの油灯の中で燃えている小さな炎に線香の束を突っ込んで火を移し、煙立つ線香を捧げ持って本殿に進み、深々と3回、お辞儀をして拝礼するのだそうだ。

    Wong Tai Sin Temple

    みな真剣そのもの。中にはひざまずき、土下座をするように一心に祈っている人たちもいた。

    People worshipping Wong Tai Sin

    供え物も日本とは違っていて面白かった。鶏の丸焼き1羽や油などを拝殿の前に置き、その手前で跪いて祈るのである。

    僕もためしに3度礼をして、「お金ください」とお願いしてきた。だけど線香も買ってないし、きっと願い事は聞いてもらえてないだろうなー。第一日本語通じないか。

    拝殿の脇には、2階建てになっている建物があり、中に入ると占い横丁のようになっている。幅2~3メートルほどの小さな仕切りがいっぱいあってそれぞれに専門の占い師がひかえており、訪れるといろいろと占ってくれるらしい。この2階建ての横丁に実に150人もの占い師がひしめきあっているという。僕は占ってもらわなかったが、建物の中に入ると、まず日本では味わえない独特の甘い神秘的な香りが全体に漂い、この怪しげな雰囲気を楽しむだけで十分満足だった。

    道教の寺院では、拝殿の前に賽銭箱は置いていない。その代わりに、参道の途中で寄付金箱のようなものが置いてあって、そこに任意でお金を入れていくようになっている。それとは別に、中国庭園のようなものがあって、そこに入るには2HKD(約30円)必要である。といっても門番がいるわけでもなく、お金を入れる箱が置いてあるだけでそこに勝手にお金を入れていくシステムである。お金を入れずに入ってもとがめる人はいないしきっちり2ドル入れなくても誰もチェックしないのだが、僕はちゃんと2ドル入れていった。

    中国庭園はまさに中国風の回廊と風景がいっぱいで、西遊記の中の世界にいるような感覚だった。きっちり回るとゆうに1時間はかかる。

    Wong Tai Sin

    黄大仙廟を出ると、午後3時ごろになっていた。このあとは地下鉄を適当に乗り継いで香港市街地周辺をまわる。觀塘線は黄大仙駅を過ぎてしばらく東へ走ると地上に出るのだが、そこから見える景色は、かなり汚い街という印象がした。もちろん日本にだって下町も汚いところもあるのだが、そういう次元を遥かに通り越した、饐えた街という感じである。おそらくこのあたりは地元の人の住宅地域だと思うのだが、観光客の目に触れない場所は手を入れないというのが露骨に表れているところにこの都市の気質を感じ取った。まあいい加減な観察なので外れているかもしれないが。

    KCR Kowloon Tong Station

    觀塘線を再び逆向きに乗り、九龍塘駅で九廣東鐵(KCR)に乗り換えてみる。手元のガイドブックによれば、そこで確か紅磡(ホンハム)というところまで行けるはずである。と思いきや、

    K C R は 尖 沙 咀 ま で 延 伸 し て い る

    ことが判明。「尖東」という新駅が紅磡の先に出来ていて、そこで地下鉄の尖沙咀駅と連絡しているようである。

    KCRの車内は、さすが長距離列車だけあって、非常に乗り心地が快適。車内には中国本土のものらしい簡体字の広告やCHINA UNICOMの広告などが張ってある。5分ほどであっという間に尖東駅に着いてしまった。

    夜は尖沙咀の美麗華商場(ミラマー・マーケット)4Fにある雲陽閣川菜館という四川料理レストランで夕食。紹興酒の熱燗に、舌が痺れる本場の麻婆豆腐を堪能した。もたれ気味の重苦しい胃に喝が入り、食が進む。他にダックの丸焼きと小籠包をオーダーし、総額455.40HKD(約6800円)。けっこう高くついた。

    そのあとは、湾仔へ足を伸ばし、栄華餅家という有名な月餅屋さんの本店で老婆餅というのを会社へのお土産用に買ってきた後、トラムで中環へ引き返し、フェリーに乗って梅窩に戻った。梅窩の街は相変わらずまったりしており、フェリーターミナル前の安食堂では営業を終えた店の人たちが牌の大きな広東麻雀に打ち興じていた。

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  • 香港高飛日記(其壱)~梅窩から中環・100万ドルの夜景~

    11月22日から24日までの2泊3日の日程で、香港を旅してきた。以前、全日空を使ってワシントンに2度出張したときのマイルがたまっており、そのうちの20000マイルを使うと北アジア(中国、香港)、グアム、サイパンのどこかに行くことができる。そのマイルは年末で失効するため、今年中に消化する必要があるということで、今回の旅とあいなったのだった。本場の中華料理が食べたかったので、できれば中国の北京あたりがよかったのだが、北京はいつも座席がいっぱいで予約不可だったので、香港にすることにしたのだ。まあ香港も中国の一部だし、なにより英語が通じそうだったので。香港なら11月が最高にいいと聞いていたということもあったし。

    誰か旅の道連れがいれば一番良かったのだが、マイレージは1人分しか航空券を出してくれないので、今回はお気楽一人旅ということになった。

    周囲からは、
    「香港は独りで行くのは止めた方がよい、香港や上海などは歴史的に強盗やスリの本場だ、シナ人は相手が独りとか弱いと見れば悪者になる特性があるぞ、しかも金のためなら他人の命をなんとも思わない、大陸は政府が強いし規制が利いているが香港はプロのワルが旅行者を狙っている所だ、日本語は勿論英語もまず通じない、ただ喧しいシナ語が飛び交っているだけだ、悪いことは言わないからキャンセルしたほうがいいぞ、云々……」
    と散々おどかされ、果たして無事に生きて帰れるものかとかなりビビリ入っていたのだが、まあきょうび女の子だって香港ぐらいは一人旅するだろうし、野郎が独りで行ったってイラクじゃあるまいし命までは取られまいと思って、行ってみることにした。

    ホテルは中国関係に強いJCBUSというところに予約を依頼した。最初は郊外の深圳にホテルを取っていたのだが、どうやら深圳は大阪なみの(爆)治安の悪さらしいということをあとになってから知り(なんせ駅前でいきなり囲まれて拉致されて金取られるんだから、たまったもんじゃない)、恐れをなして香港内にホテルを取り直した。出発間際だったのでなかなかホテルが決まらず、出発2日前になってランタウ島の梅窩(ムイウォー)というところにある銀鑛灣酒店(Silvermine Beach Hotel)というところにようやく決まった。

    成田発が午前10時と早いので、前日に成田近辺で一泊し、当日は万全の体制で臨む。といっても風邪をひいてしまっており、咳が止まらない状態という、体調的にはあまりよろしくない状態での旅行となった。

    0950NRT – 1335HKG
    全日空909便。飛行時間は約4時間半。成田を北西に向かって飛び立ったあと、くるっと南西方向へ右旋回して羽田空港の真上を通過し、富士山~大阪~高知~鹿児島の上空を過ぎたあと、沖縄諸島の北方、東シナ海を飛んで台湾を縦断し、香港に至るという飛行ルートだ。途中、機内食が1回出た。

    機体は香港市街の上空を通過して西に向かったあとしばらくしてぐるりと東へ方向転換し、東向きの空港滑走路にアプローチした。高度が下がるにつれ気圧の変化で耳が痛くなってきたが、喉風邪のせいでうまく耳抜きができず、ついには左耳が全く聞こえない状態になってしまった。これは地上に降りてからも続いた。

    着陸し、飛行機から降りる。香港の匂いはこれまで行ったどこの国とも異なっていた。アメリカはシナモンの香り、シンガポールはスパイシーな香りだったが、香港は炒め油の匂いが漂っていた。

    入境審査の窓口の前に並ぶ。並び方や並ぶ位置が時々刻々とコロコロ変わり、そのたびに職員のお姉さんがあわただしく動き回って場所を指示していく。その指示の仕方が外国らしく無愛想&事務的なので、後ろに並んでいた日本人の団体などは日本語で思いっきりぼやく始末。

    入境審査自体は特に変なことを聞かれるでもなく、すぐに終了。ついに香港の国に入る。空港にあったATMで3000ドルばかり下ろす。スリが狙っていないか。急に緊張感が高まる。

    Hong Kong International Airport

    財布を入れたポケットを手で覆いながら空港のロビーに戻る。ここから梅窩まではバスで行くこともできるのだが、せっかく香港に来たのだから一度エアポートエキスプレスとやらに乗ってみることにした。

    片道切符を買うこともできたのだが、香港では八連達(オクトパスカード)というICカードが発達していて、これ1枚で全港のほとんどすべての交通機関を利用できるうえ、小銭を気にする必要がないというメリットが大きいので、このカードを買うことにした。といってもどこに売ってるかわからず、ロビーの中にあったインフォメーションデスクのようなところでカードを買える場所を適当に訊いてみると、なんとそこで売ってくれるとのこと。デポジット50HKD込みで総額150HKD(2250円)。

    エアポートエキスプレスは空港内に乗り入れており、乗り場がすぐに見える場所にあった。しばらく待っていると電車がやってきた。

    電車は4列クロスシート。シートは日本のものよりも少し固い感じはあるが、布張りで快適。内装もとても清潔だ。動き出してからも乗り心地がとても良い。

    Airport Express

    車窓からは、初めて見る香港の景色が流れる。気持ちよさそうに流れる高速道路、高層住宅街など、窓から見える街並みはどこも非常に整っていて、かつて言われた「魔都」のイメージなどどこにもない。

    電車は、途中、「青衣」「九龍」に停車したあと、終点の香港駅に行く。車内アナウンスは広東語、英語、北京語の順で行われる。同じ漢字なのに広東語と北京語で読みが違うのが面白い。「香港」は広東語では「ホンコン」だが、北京語になると「シャンカン」という読み方になる。

    機場駅を出てから約20分ほどで終点の香港駅に到着。日本のsuicaと同じ要領で改札機の読取部分にオクトパスカードをタップする。地上に出ると、中環(Central)のスターフェリー乗り場の近くに来た。このあたりの街並みも、とても清潔だ。

    少し迷いながら、梅窩行きのフェリー乗り場にたどり着く。ここでもオクトパスカードが使用可能なので、カードをタップさせるのだが、改札が開かない。すかさず係員が飛んできて、有人改札に行けと言う。行ってみると、そこの係員がカードを調べて「No money!」と言う。ここでは金を払わなくてよいのかと思っていると、そうではなく、このカードに残高がないのでチャージしろという意味だった。さっきのエアポート・エクスプレスでなんと100ドルまるまるかかっていたのだった。

    窓口でさらに100ドルチャージして、再度改札機を通すと、ちゃんと通ることができた。香港の改札機は、日本のように閉じた扉が開いて通れるようになる方式と違って、側面に大きな円盤があり、そこに3本の鉄の棒が横に伸びて、上にくる棒で人を通せんぼする形となっている。有効なカードを通すとその円盤が動くようになり、上の棒を持って奥に向かって円盤を回しながら一緒に人が通ることができるようになる。
    改札をくぐると、船がまさに出港しようとするところだった。走って乗り込み、ぎりぎりセーフ。

    中環から梅窩まで、ちょうど30分で着いた。ガイドブックには50分かかると書かれていたので、予想外の速さにびっくり。

    梅窩のターミナルを降りて右手に海沿いを5分ほど歩くと銀鑛灣酒店に着く。目の前はビーチが広がる、のどかな場所である。ついこないだ高校を出たばかりっぽい若くて可愛らしい男の子がフロントの受付をしていた。もちろん普通に英語が通じる。宿泊料金をクレジットカードで払って鍵をもらい、部屋に入る。あまりきれいな部屋ではなく、これで1泊1000HKDはちょっと高い気もしないではないが、まあ九龍や湾仔などの繁華街のホテルよりもまったりしていていいかもしれない。

    Silvermine Beach
    Silvermine Beach Hotel

    しばらく部屋で休んだあと、再び梅窩のターミナルに向かう。セブンイレブンがあった。今回の香港訪問の目的の一つとして、現地のプリペイド携帯電話(SmarTone社のUSIMカード)を購入するというのがある。さっそくセブンイレブンの店員にかけあってみると、あっさりとレジの下の引き出しをごそごそと探し、ビニール袋につつまれた新しいUSIMカードを出してくれた。180HKD(約2700円)。身分確認も何もない。テレホンカードを買うような感覚で、ここではこうして簡単に買うことができるのだ。

    ターミナルから再びフェリーに乗って中環へ。フェリーの中でさっき買ったUSIMカードをGSM携帯電話機の中に入れ、電源を入れてみる。ちゃんと「SmarTone」と表示され、認識された。ためしに現地の天気予報(TEL:185-03)に電話をかけてみると、SmarToneからの開通のアナウンスとともに、広東語の天気予報が聞こえてきた。これでこのUSIMカードが携帯電話として使えるようになった。有効期間は180日で、期限までに追加料金をチャージすれば、さらに180日間この電話番号を維持することができる。

    国際ローミング可能なので、日本のW-CDMA対応の携帯電話機(NOKIAなどで売っている)にこのUSIMカードを差し込めば、日本でも使えるはずである。今、日本ではおれおれ詐欺が問題になっていて、国内でのプリペイド携帯の販売を規制するとかなんとかいう動きがあるようだが、このように香港で買ったプリペイド携帯をローミングインできるので、そんな規制は全く意味がない。日本のお役人がいかに自国内だけしか見ていないかということがよくわかる。

    6月に訪れたシンガポールの街並みはどことなく横浜を思わせるものがあった。シンガポールが横浜なら、同じ港町の香港は神戸に似ている。フェリーが中環に着く直前にフェリーの右手には、香港島の高い山を借景としてその裾野に街が広がるのが見える。まさに神戸の街並みそのものである。まあ神戸にはあんなに高いビルはひしめきあっていないけど。

    Bayside view

    中環の街も、なんとなく神戸の三宮に似ている。遮打大廈(Charter House)や環球大廈(World Wide House)あたりは渡り廊下で結ばれていて、三宮センタープラザを思わせる。

    環球大廈にある両替店で、所持金を両替する。当初、深圳に行く予定で中国元を1000元用意していたのだが、要らなくなったので、100元札1枚だけを記念に残し、残りの900元を香港ドルに両替することにした。レートは0.92と言われ、900元は820HKDほどに替わった。

    近くの「鏞記酒家」という広東料理レストランで夕食を摂る。本場の中華料理を前に張り切ってダックの丸焼きをオーダーしたのだが、日本の中華料理とは使っている油が違うのか、食べるとすぐに胃にもたれ、中華料理好きの僕でも全部食べ切れなかった。

    食事のあと、やはりここまで来たなら香港100万ドルの夜景を拝まなければ、ということで、急な坂を上ってピークトラムの乗り場に行き、そこから山頂へ上ることにした。ピークトラムでもオクトパスカードが使用可能。摩耶ケーブルのようなケーブルカーが、急峻な坂を力技で上がっていく。

    山頂の駅には展望台があり、そこから夜景が見えるようになっていた。日本人の団体もいっぱいいたのだが、夜景を見た印象としては、100万ドルと形容されるほど感動するものでもなく、「ふーん」という程度のものだった。あまりにも高いビルが中腹まで伸びてきていて、それらが下の風景を妨げている格好になっていた。やはり香港の摩天楼は下から見上げたほうが壮観である。

    Downtown view from Victoria Peak
    Central

    ※道端で立っていると、地元の学生風の可愛い女の子に話しかけられること2度。何言ってるかさっぱりわからなかったのでゴメンナサイしてしまったが、惜しいことをした。次までに広東語を勉強するぞ :-p

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  • 水戸漫遊記

    藁で包まれた水戸納豆が無性に食べたくなったので、思い立って納豆を買いに水戸まで行ってきた。
    水戸駅に午後6時頃着いたのだが、駅前には、渋谷では既に絶滅したと思われる《ガングロ+茶髪+制服》のコギャルたちが3人ほど

    お パ ン ツ の 中 ま で し っ か り 見 え る よ う に

    しゃがんでいる。そしてその周りを、いかにも安っぽそうな格好をしたホストたち10人ぐらいが取り囲むように客引きをしている。
    しばらくすると、これまた〈いかにも〉という格好の、柄の悪いチンピラスーツに身を包み、後ろ髪を伸ばしツンツンした髪型をした、典型的な田舎の族か木っ端ヤクザといった連中が練り歩いてきて、そのホストたちに「オゥ」などと声をかけている。
    イバラキではこれがデフォなのかもしれないが、東京でこんな真似してるとかなり恥ずかしいだろうな。

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  • シンガポール訪問記4

    この日はフライトの関係上、いつもより早く起きなければならなかった。

    急いで朝食を取り、チェックアウトをしてバスに乗る。

    チャンギ国際空港で出国手続きをし、出発まで免税店をめぐる。

    ここの免税店は、化粧品やタバコ・酒はおろか、電気製品、はてはパソコンまで売っていたりして、世界一ともいえるほど品揃えが充実している。僕は昨日買った携帯の充電器の電源変換アダプターを買った。

    0945SIN-1735NRT
    機内食を2回いただき、特に何事もなく成田まで戻ることができた。

    シンガポールではどこに行っても英語表記がデフォルトだったが、成田に戻ってみると、周辺は日本語だけの表記が幅を利かせている。ここは日本語の国なんだなーという思いを強くさせられる。それでも先進国の一つとして世界と対等に勝負できるということは、日本がそれだけ強い国ということなのかもしれないが、外国人を積極的に迎え入れる姿勢という点において彼我の差を感じさせられた。

    (more…)

  • シンガポール訪問記3

    この日は、展示会の見学も午前中で切り上げ、午後から2~3人を誘ってどこかに行くことにした。
    とりあえず、2時にホテルのロビーで待ち合わせることにして、それまで各自自由にショッピングということに。

    さて僕は近所の携帯電話ショップに出向き、手ごろなGSM端末があれば土産代わりに買って行こうかと思って物色していると、店員の兄ちゃんがやってきて、商品を取り出して説明を始めた。「GSM端末はNOKIAが一番使いやすいよ」と言われていたので、NOKIAを出してくれと言ったが、どれもS$600(42000円)~S$1000(70000円)ぐらいするので、携帯を買うのはあきらめ、bluetooth対応の携帯電話用ヘッドセットを見せてもらうことにした。

    「こっちの安いほうの値段がthree thirty、高いほうがfive fiftyだよ」と店員の兄ちゃんが言う。なんだ高いのでもたったのS$5.50(385円)か!と思い、即座に「買った!」と言ってクレジットカードを差し出す。

    店員がカードをカードリーダーに通し、印字されてきたカードスリップを「ここにサインして」と言って持って来たのを見ると、金額が「$550.00」(38500円)となっている。桁が2桁も違っているので、僕は「これは高すぎる!やっぱりやめた」と言うと、店員は
    「買うって言ったじゃないか!」
    と言って譲ろうとしない。

    遊機「いや、five fiftyって、5ドル50セントだと思ったものだから……」
    店員「bluetoothのデバイスが5ドル50セントなわけないだろ! とにかく一旦カードを機械に通しちゃったから、いまさら取り消しは効かない」
    遊機「うーん、困ったなあ……」
    店員「じゃこうしよう。さっきの600ドルって言ってたNOKIAの携帯、あれを550ドルで売るから。ウチはちょっと損するけど、never mind。さあ、ここにサインして」

    なんか後味悪かったが、まあもともと携帯を見に来たということもあるし、NOKIAの携帯を50ドル値切って買ったと思えばいいか、と思って、それで手を打ってサインすることにした。

    手に入ったのはNOKIAの6610i。メガピクセルのカメラ付き。モノとしては悪くない。さっそくレンタル携帯からSIMカードを移し変えて、電源ONしてみた。ちゃんとSIMカードを認識して電波も拾っていたので、これからはこの携帯を持ち歩くことにした。

    さて2時になったので、ホテルのロビーで待っていると、ロビーから呼び出しがある。ショッピングしていた、一緒に行くはずの人たちから電話が入っているとのことで、受けると、
    「すみませーん、買い物終わらないんで、せっかくですけど今日は全員キャンセルさせてください」
    とのこと。

    さきの携帯買わされ事件とこのドタキャン事件とのダブルパンチですっかり打ちひしがれてしまったが、いつまでも引きこもっているわけにもいかないので気を取り直して一人で観光することにした。

    とりあえず、マーライオンでも見に行くか、ということで、地下鉄に乗り、Raffles Placeという駅まで行く。そこで地上に上がると、運河が見えた。運河沿いの風景は美しくて良かったのだが、肝心のマーライオンが見当たらない。ガイドブック片手にあっちこっち歩いていると、5分ほどでたどりつくことができた。

    マーライオンは、世界三大がっかりスポットといわれるほどつまらない場所といわれるが、実際に見てみるとそれほどがっかりというわけでもない。さしずめ、お台場の自由の女神のような感じである。下の写真のように、マーライオン君が海に向かって海水を噴き出している。

    Back of Maarlion

    近くに、桟橋のようなものが突き出しており、そこの先端からマーライオン君の正面を見た写真がこれ。

    Marlion

    人も少なく、対岸には島があったり、高級ホテル群を臨み見たりできるので、雰囲気的には決して悪くない。神戸の中突堤のようにマターリとした感じといえるかもしれない。

    僕は、缶のTiger Beerを買い、近くに座って飲みながらぽけーっとしていた。

    時間に追い立てられながら観光地をめぐるよりも、こうやってぼーっとしているほうが、最高の贅沢といえるかもしれない。

  • シンガポール訪問記2

    朝は、8時過ぎに朝食。とはいってもシンガポールと日本とでは時差1時間なので、日本時間にすると朝の9時過ぎということになる。毎日6時起きが習慣の僕にとって、とても9時まで寝てられるものではないので、いつもシンガポール時間の朝5時過ぎには目が覚めてしまう。

    ゆっくりと朝風呂につかり、TVをつける。シンガポールのTV局はMediaCorpという局の1局しかなく、あとはCNNとか近隣のマレーシアの放送局などが映る。NHKの放送チャンネルもあった。東京の放送と変わらない。こういうのを視ると、外国に来た気がしない。なおエッチな有料放送はシンガポールでは認められていないのか、探してもどこにもなかった。

    TVを視ても飽き足らず、ホテルの外をお散歩することに。早朝だというのに外に出ると相変わらず蒸し暑い。背の高い名前のわからない熱帯樹から落ちた怪しい大きな木の実が道路上で弾け散り果肉をさらしていた。

    York Hotel York Hotel

    近所にセブンイレブンがあったので、入ってみる。中は日本のコンビニとあんまり変わらない。マレーシア製の怪しいさとうきびジュースを買う。350ml入り1缶S$1.35(95円)。昨日の屋台の缶ジュースは1缶S$2.50だったので、ひょっとしたら昨日はボラれていたのかもしれない。そういえば屋台のオヤジ、「Japanese?」とか聞いてやがったもんなあ。

    朝食はホテル内のバイキング。あまり美味い食事ではなかったが、バイキングということでついつい食べ過ぎてしまう。

    9時過ぎ、お迎えの「南無阿彌陀佛」バスに乗って展示会の会場へ向かう。

    展示会会場は「EXPO」という地名で、チャンギ国際空港の近所にある。法律で空港に近いところには住宅を建てられないことになっているので、空港周辺の一帯はこのような国際展示場や、日本郵船などのコンテナヤードで占められている。

    EXPO

    展示場の建物を入ったところでレジストレーションをすませ、各人の名前と所属が印字されたプラスチック製の白い名札と、それを入れる透明なケースを受け取る。ケースにはストラップがついていて、場内では名札をケースに入れて首から提げて歩かなければならない。

    ニシ・キヨミさんという女性が現地の通訳担当として同行する。彼女は12年前に会社の仕事の関係でシンガポールにわたったきり、現地で結婚しそこに住み着いてしまったのだという。

    場内に入る前に、そのニシさんから簡単な注意がある。「私はここの入口の近くに立っていますから、通訳が必要なときは言いに来てくだされば同行します。あと、写真についてですが、撮影してよいのはこの外側までで、ここから中は撮影禁止になっています。展示ブースの説明員の方に一言断って、そこの写真を撮ってもよいと言われたら、そこだけは撮ってかまいませんが、それ以外のブースでみだりに写真撮影することは控えてください」

    写真撮影だけでなく、服装についてもきちんとしたものでなければならないと入口に書かれており、ショーツ姿やサンダル履きなどのカジュアルな服装では入場を断られるとのこと。そのあたりの厳しさは、いかにも管理国家シンガポールらしい。

    Communic Asia 2004

    ひととおり注意事項の説明を受けたあと、私たちは場内に入って、めいめい自分の興味のある分野について自由に展示ブースを回る。

    さて今年のCOMMUNIC ASIAの大きな目玉としては、モバイル関連、とりわけ携帯電話の躍進が目に付いた。ほとんどのブースで、携帯電話端末の新製品紹介が中心だったのである。

    アジア地域の携帯電話のシステムは第二世代であるGSM方式が主流である。GSMはヨーロッパの郵政・電気通信主管庁会議(CEPT: Conférence Européenne des Postes et Télécommunications)を中心に規格化されたもので、もともとフランス語のGroupe Spécial Mobileの略称だったのが、世界進出にあたって英語のGlobal System for Mobile communicationsという言葉があてられるようになった。

    日本の携帯電話業界は、携帯電話事業者主導で走ってきた経緯があり、各事業者が電話機端末の細かい仕様まで決めているので、日本で携帯電話を使うときはまず事業者と契約してから、その事業者が扱っている電話機を選んで購入する形になっている。別の事業者を契約したときは、電話機も新しい事業者の扱っているものに変えなければならない。また電話機の属する事業者以外の電波を、同じ電話機で受信することはできない。

    それに対して、GSM端末はその仕様が共通化されているため、電話機メーカーはその仕様の範囲で思い思いの電話機を製造することができる。電話機の購入と事業者の契約とはまったく独立したものであり、携帯電話を使いたいユーザーは携帯電話事業者の発行する親指の爪ほどの大きさのICカード(SIMカード)を購入もしくはレンタルする。このSIMカードの形状は統一されていて、ICチップに電話番号などの識別情報が埋め込まれている。そのSIMカードを電話機に装着して電話機の電源をONすると、その地域で受信できる事業者をサーチして、最も適切な事業者を選択して電波を受信する。その電波は必ずしもSIMカードを発行した事業者である必要はなく、電話機を使う地域の事情に応じて最適な事業者が選択される。このため、GSMのカバーするエリアの範囲内であればどこの国に持って行っても、どの種類の電話機であっても、自由にローミングして使うことができるのである。GSMのエリアは、アジア諸国(韓国は除く)のほか、欧州、中東、アフリカ諸国など多岐にわたり、携帯電話の事実上のスタンダードとなっている。

    GSM方式は電波の周波数帯域を多く消費し、日本のPDC方式などに比べ周波数利用効率などの点で必ずしも優れているわけではない。人口密度の極端に高い日本のような国ではPDC方式のほうがはるかに分があることは疑いないのだが、日本の狭い国内に閉じた標準制定にのみ配意して海外展開をなおざりにしているうちに、海外ではGSMにすっかり覇権を握られた形となってしまった。技術は優れていても政治的に弱い日本を示す好例といえよう。

    街を見渡してみると、若者たちはどこででも携帯電話を取り出して気軽に会話している。地下鉄のホーム上は言うに及ばず、駅間のトンネル内でも電波が途切れないので、電車内で通話している人も多い。マナーにうるさいどこかの国のようにそれを咎めだてることもない。そんな国では、携帯電話でメールを打っている人はほとんど見かけず、通話がメインの使い方である。

    ショートメッセージ(SMS)の送受信は可能だが、相手の電話番号を指定して送信する形しかなく、日本のようにインターネット上のメールアドレスにも送ることのできるEメール通信というのはまだないらしい。最近の機種では、メッセージに静止画や動画などを添付できる、マルチメディア・メッセージ(MMS)に対応していることを売りにしていた。MMS対応で、メガピクセルのカメラ付き携帯というのがアジアでの最先端で、COMMUNIC ASIAの展示でもそれを強調しているものが多かったように思う。

    SMSについて面白いと思ったのが、展示会場の外に置いてあったジュースの自動販売機で、そこに書かれている電話番号にショートメッセージを送ると、その自動販売機からジュースを買うことができるようになっている。ジュースの代金は通話料と一緒にあとで課金されるようだ。

    Coke vending machine Coke vending machine

    送信メッセージを入力したり、電話機の電話帳機能を使ったりする場合、電話機のキーを押すことでテキストの入力・編集をすることになる。つまり、電話機用の入出力インタフェースシステムを開発しているメーカーも当然のことながら存在する。カナダに本社をもち、北米、アジアにオフィスを展開するZi社は、eZiTextと呼ばれるテキスト入力システムを開発し、それを各社のGSM端末にインプリメントしている。GSM端末では文字の入力の仕方が日本と少し異なっている。たとえば、「east」という単語を入力する場合、一文字目の「e」という文字は電話機のキーパッドでいえば「3」キーの上にある。「3」キーの上に載っているアルファベットは「def」なので、「e」と入力するためには、日本の電話機であれば「3」キーを2回押すところだが、GSM端末では1回でよい。どの文字を入力する場合でもキーを押すのは1文字につき1回で、「east」と入力するためには「3278」と押せばよい。そうすると入力システムのほうで、入力された「3278」という数字から対応する文字の組み合わせをみて、そこから意味のある単語を判断しその候補が表示される。もちろん「east」だけではなく「fast」というのも考えられるので、候補は複数になるわけだが、電話機の矢印キーを上下させながら選択し、最後に「OK」キーを押すと入力単語が確定する。長い単語の場合は、最初の数文字を入力すると自動的に入力補完されて候補が表示される。Zi社のeZiTextはノキア、モトローラ、サムソンなど主要な電話機にはほとんど採用されているということである。

    携帯電話端末はまだまだ第二世代であるGSMが幅を利かせており、第三世代のCDMA方式に移行するのは当分先のようである。シンガポールではSingTel社が「Be the first to 3G」というスローガンを謳っており、今年中にはCDMAのサービスを開始するということだが、既存のGSMからCDMAに完全に移行するのにはなお数年を要するだろう。COMMUNIC ASIAでもCDMA端末を展示していたメーカーは京セラ、サムスンなど一部の有名企業に限られ、それ以外の小規模メーカー、特に中国のメーカーにいたっては僕の見た限りでは皆無であった。

    さてVoIP関係で飯を食っている僕なので、今回のCOMMUNIC ASIAでもVoIP関連の展示に非常に興味を持っていたのだが、残念なことに、VoIP関係の展示をしているのは、Lucent Technologies社やSIEMENS社などわずか数社がPC、PDAなどから利用できるIP電話のアプリケーションのデモをしているにとどまっており、目新しいものは窺い知ることができなかった。

    ネットワーク系のIP化、つまり既存のPSTN電話網をIP網にシフトしていくというのは、世界的な流れとして各方面で検討されているのだけれど、アクセス系まで含めてトータルにIP化するソリューションを進行させているのは今のところ日本だけのようである。今後、その形態が世界的に広まるかどうかは未知数だが、少なくとも今の時点では、VoIPに関してはアジア地域では時期尚早というのが見た限りでの印象である。

    昼食は展示会場内にカフェテリアがあり、入口で金券を買ってから、中で金券を払うしくみになっていた。現金で直接払わないのは、衛生上の理由なのかもしれない。

    シンガポーリアン、チャイニーズ、マレーシア、インドなど各国料理が揃っているところなど、さすがは多国籍国家シンガポールだ。僕はマレーシア料理のカウンターに並び、怪しいカレーのようなものを注文した。そのあとジューススタンドに寄ってスターフルーツの生ジュースを頼んだ。それでも喉が渇くので、最後にコカコーラを注文。これだけできっかりS$10(約700円)。

    もちろん展示といっても堅苦しいものばかりではなく、ビンゴゲームや、ダンスショーなどの余興もちゃんとある。下の写真はタイの通信キャリア・TOT社の民族舞踊である。

    Dance Performance at Thailand Booth

    3時ごろまで展示場を見て回ると、さすがに足が棒のようになってきたので、地下鉄に乗ってホテルまで戻ることにする。

    Singapore MRT

    地下鉄は紙の切符ではなく、日本のsuicaのようなプラスチック製のICカードをデポジットS$1.00で借り受け、そこに運賃をチャージするしくみになっている(券売機では、デポジットS$1.00+運賃分の料金を払うことになる)。運賃がチャージされたカードを改札機の読み取り部分に「tap(かざす)」して改札を入り、出たところでも同じようにカードをtapして出る。カードは一度使うと再チャージ不可なので、使用後のカードは券売機でデポジットの払い戻しを受けなければならない。

    地下鉄の駅はアメリカのように暗くなく、日本と同じ明るさ。車内も清潔だ。ただシートが球場の外野席のような硬いプラスチック製だったのが日本と違うところである。

    ホテルに戻り、さて夜はどうしようか、せっかくだからマレーシアの国境近くまで地下鉄かタクシーかバスで行ってそこから歩いて国境越えしてジョホールバルまで行こうか、でも下手に出国してシンガポールに再入国できなくなったりしたらヤバイなーなどと考えつつ悶々としていると、携帯が鳴り、
    「事務局の人と一緒に飯食わない?」
    という部長さんの有難~いお言葉。もちろん2つ返事でOK。コンチネンタルホテルで部長さんと事務局の女性と3人で和やかにフレンチをいただいてきた。

  • シンガポール訪問記1

    会社の研修という名目で、シンガポールに3泊4日の出張に行ってきた。シンガポールで開かれる「COMMUNIC ASIA 2004」という展示会を視察するというのがその目的である。この展示会はIT関係ではアジア最大のものとして1979年から毎年ここシンガポールで開催されているもので、昨年はSARSの影響で中止となったため今年は実に2年ぶりの開催とのことである。

    ここで、シンガポールという国について簡単に紹介しておかなければならない。シンガポールは、マレー半島の先端部分に位置する島国で、わずかに東京23区程度の広さのところに約300万人が住んでいる。良質な港をもち、位置的にも東アジアとインド洋とのトランジットポイントという特性から、戦略的に重要な拠点として昔から注目されており、第二次大戦中は日本に占領されていた時期もある。

    戦後はマレーシア連邦の一部となったが、1965年に独立してシンガポール共和国となった。独立国としての歴史はわずか40年足らずのまだ若い都市国家で、天然資源が全く無く、農産物の輸入率100%であることに加え、水までマレーシアから輸入しているありさまの、そんなシンガポールが国として生きていくためには、周辺諸国との通商、交易によるしかない。

    また人口構成も華人(中国系)、マレー系、インド系など4人種の混成だったのだが、独立当初は各人種内で人間関係が完結しており、人種間の意思疎通に支障を来たしていた。そこでシンガポール政府は公用語を英語と決め、政府主導で時には厳しい罰則も含む強権を発動しながら、いろいろと実験的、戦略的な試みを取り入れて、国をまとめてきた。

    そのおかげで、シンガポールはアジアの玄関口として世界中の人々との港湾貿易を中心に栄え、今では多くのハイテク企業が軒を連ね、アジアの金融、商品流通センターとして東京さえも凌駕するといわれるほどになっている。

    集合は成田空港の北ウイングに朝9時ということなので、当日家を出ようとするとどう遅く見積もっても朝の6時ぐらいには家を出なければならない。ということは朝5時起きぐらいを余儀なくされるわけで、そんな苦行には到底耐えられそうもない。それに、成田に向かっている途中で電車が止まっちゃったり車が事故起こしたりしたら洒落にならないので、前日のうちにクルマで成田入りすることにした。

    前日に成田の航空科学博物館など見学して頭を航空モード!に切り替えてから、ホテルで英気を養う。そのホテルも、一泊5000円弱で、14日間まではクルマをタダで停めておける。宿泊なしでクルマだけ近所の駐車場に置いたとしてもそのぐらいの値段するわけだから、この前日泊というアイディアはなかなかうまい手なんじゃないだろうか(ただし家族連れだと高くつくのだが)。

    当日、空港でGSMの携帯電話をレンタルする。僕はFOMAの携帯電話ユーザーで、ドコモのWORLD WINGに入っているから、FOMA端末のSIMカードをレンタルしてきたGSM端末に差し替えると、シンガポールでそのGSM端末を使って電話をかけることができる。

    集合場所は空港の団体待合室。ちょっと日本風味の部屋の中に、研修参加者29人と、旅行会社の男性、研修事務局の女性がいる。ひとしきり説明を受けたあと、旅行会社の男性を残して他の僕たち一行は出国手続きに向かう。

    飛行機はシンガポール航空。「シンガポール・ガール」という独特のデザインのスチュワーデスの制服で有名である。国内の航空会社は既に「スチュワーデス」という呼称をやめ、「CA」とか「フライトアテンダント」などと言い換えているが、ここはまだ「スチュワーデス」と呼んでいる。その代わり、「スチュワード」という男性客室乗務員もほぼ同数そろえていた。だいたいシンガポーリアンが中心なのだが、日本人のスチュワーデスも2~3人用意されていた。

    1130NRT-1725SIN
    飛行時間は7時間ぐらい。長すぎず短すぎず、「旅をした~っ!」という実感が沸く程度の時間である。機内食は日本の洋食テイスト。シンガポール風を期待した僕はちょっと拍子抜け。カクテルはシンガポール・スリングをオーダーした。

    それにしても、ここのスチュワーデスはサービスするときにもニコリともしないね。日本人スチュワーデスといえども例外じゃない。おまけにカートは座席にガンガンぶつけてくるわ、呼び止めても「ちょっとお待ちください!」と言ったきりプイッとどっかに行っちゃってなかなか来ないわ、まあ全日空みたいなサービスはもとより期待してなかったとはいっても、これはちょっとひどいなあ……。シンガポール航空はスッチーの制服以外にいいとこなしだった。

    そうこうしているうちに、マレーシアの上空に到達。上空から見るマレーシアの畑。日本の段々畑とも違った独特の模様を描いていた。それから15分ぐらいすると、シンガポールのチャンギ空港に到着した。現地の気温は32度。降りると、7月の大阪のような蒸し暑さだった。

    外国に降り立つと、街の"匂い"が日本にいるときと違うのに気づく。外国人が日本に入ると、「味噌の匂いがする」と言うらしい。以前アメリカに行ったときは、シナモンの香りが漂ったものだ。シンガポールの匂いは、日本のものともアメリカのものとも違う、独特の、スパイシーな香りがした。

    Changi Airport

    GSMの携帯電話の電源を入れてみる。「Searching…」という表示が数秒続いた後、現地の携帯キャリアの電波をつかんだ。そこから会社に「今着いたよ」コールを入れる。

    空港で、現地ガイドのメイさんという女性と合流し、彼女の先導でホテル行きの貸切バス乗り場へと向かう。ほんの100メートルぐらいの距離だが、暑い。

    バスは日本の観光バスと変わらない。三菱ふそう製だったが、フロントガラスに

    「南無阿彌陀佛」

    というステッカーが貼られていたご利益のおかげか、大きな事故もなく無事に乗っていくことができた。

    道路は日本と同じ左側通行。走っている車はベンツがやたら多い。大きな実をたわわにつけたヤシやらマンゴーやらの木が街路樹になっているところ、さすがは熱帯の国という感じ。

    今回の研修は1人で申し込んだので、参加者は知らない人ばかりで、自由時間はきっとずーっと単独行動なんだろうな~と思っていたら、以前仕事でからんだことのある、国際電話のプロダクトオーナーの部長さんがたまたま一緒だということがわかり、その人にくっついていくことにした。

    「City HallのPan Pacific Hotelに旨い中華の店があるよ」ということなので、そこで落ち合うことにする。Orchardというところにあるホテルにチェックインして、部屋に。ホテルは日本の高級ホテル並み。アメリカみたいにベッドに枕3個並ぶほど広いわけではないが、それでもゴージャスであることには違いない。

    さて、ホテルからPan Pacific Hotelまで行くのに、地下鉄で行ってもいいのだが、切符の買い方もよくわからんし、せいぜい2~3キロぐらいなので、歩いていくことにする。Orchard Roadというところを海岸方面に向かって歩いた。Orchard Roadは日本の表参道みたいな感じで、街を歩いている若者もアジア系。あんまり外国に来たという実感がわかない。日本にいるのとあんまり変わらない気がした。それでも、標識や案内表示は英語がメインで、外国人にとってもわかりやすい。

    途中、あまりに蒸し暑くて喉が渇いたので、ジュースを売ってそうなスタンドバーに立ち寄る。肌の浅黒い、インド系かマレー系のオヤジさんが寄ってきて、「Are you Japanese?」と聞いてくる。「Yes.」と答えると、「Very good.」などと言ってくる。何がgoodなのか知らないが。それで、すすめられるまま缶ジュースを買った。1本S$2.50(175円)。どうやら物価は日本より高いみたい。

    さてPan Pacificに着き、部長さんと落ち合って中華料理をいただく。味は日本のバーミヤンとあんまり変わらなかったが、塩味がハッキリしていて旨かった。帰りは怪しい足ツボマッサージの店に連れて行ってもらう。中国系のお姉さんに足の裏を揉まれたり叩かれたり。日本より荒っぽいんだが、気持ちよかった。1時間で約S$50(3500円)。日本より相場的にはるかに安かった。

    店を出たときはもう夜の12時。それでも街は活気に満ち溢れていた。

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  • シンガポールに逝ってきます

    6月14日~17日まで、シンガポールまで海外旅行出張のため不在になる予定。
    罰金取られなぃよぅに気をつけねば……(汗)。