エストニアのマイナンバー

エストニアという国が今IT立国として注目を集めているようです。バルト三国としてソ連から独立したのが1990年代前半、それ以来日本人にはなじみの薄いこの国ですが、スカイプやその他のスタートアップ企業で知られているほか、政府ぐるみでヨーロッパのIT市場におけるオフショア開発拠点としてITエンジニアを多数呼び込んでいる「デジタル国家」を作ろうとしています。

政府は国民にIDカードを発行しており、このIDカードはちょうどアメリカのソーシャルセキュリティカードや日本でこれから始まろうとしているマイナンバーカードのようなもので、これで納税、オンラインバンキング、処方箋の発行などなど、ワンストップのサービスを提供しているとのことです。さらに、エストニアの住民だけではなく、国外に住む外国人に対しても「電子居住(e−Residency)カード」というのを発行し、エストニアの電子住民としてコンピュータを通じてリアルな住民と同じようなサービスを「電子的に」提供しようとしているとのことです。

電子居住カードの申し込みは簡単で、まずe−EstoniaのWebサイト(https://apply.e-estonia.com/)でオンラインで手続きをし、50.99ユーロをカードで払います。このときに受け取り場所に最寄りのエストニア大使館を指定すると、エストニアに行かなくても大使館で受け取ることができます。申し込んでからカードができあがるのに約一ヶ月ほどかかり、できあがるとメールで通知が来ます。ちなみに申し込みから通知まですべて英語でOKです。日本語はちょっと無理ですが…。

私もこの8月に電子居住カードを申請してみました。一ヶ月後に大使館の一等書記官の人からカードが到着したというメールが届き、大使館に受け取りに来る日を教えてほしいと言われました。さっそくアポイントを取って、約束の日時に東京の神宮前にあるエストニア大使館に行きました。こんな感じの、閑静な住宅街に立つこじんまりした邸宅といった趣でした。

Estonian Embassy

Estonian Embassy

入口の呼び鈴を押すと、門の電子錠が開き、インターフォン越しに男性の声で「Come in.」と言うのが聞こえました。門を開けて入ると、玄関のドアの前に中年の紳士が立っていて、邸に招き入れてくれました。まず玄関のノートに名前と日付と来訪目的を書くように言われ、そのあと中の大広間の大きなテーブルに招かれ、そこに座るよう言われました。

座ると、自己紹介をされ、そのあと私の名前を訊かれました。私の名前を告げると、パスポートを見せるように言われ、パスポートを出すと、名前の書いてある写真のページをしっかりとチェックして、それをテーブルから少し離れたところにあるPCに持って行き、何やらデータを打ち込みました。

数分後、そのPCの前に来るよう言われ、「これから指紋を取るから」と言われてPCに接続されている指の形をしたスキャナーのガラス面の上に右手の人差し指を置くように指示されました。そしてそのガラス面をぎゅっと人差し指で押して、そのままの状態でいるようにと言われたのですが、その力加減が強すぎたり弱すぎたりすると指紋の採取が難しいようで、何度もやり直しをさせられ、5〜6回目ぐらいでやっとちゃんと取れたようでした。次は左手の人差し指で同じことをさせられ、これも何度も失敗してやっと採取できたようでした。

日本人は両手の人差し指だけ取るそうですが、中国人やフィリピン人とかなら全指取られるのだということです。

指紋採取が終わると、テーブルに戻り、いよいよ電子居住カードとキットが交付されました。

e-Residency Card kit

e-Residency Card kit

キットの中には、利用条件の書かれた紙と、PINが書かれた封筒と、カードリーダーの入った紫の箱が入っていました。利用条件の書かれた紙は下のほうにサインをするところがあり、まず私が受け取りのサインをして、一等書記官がそれにカウンターサインをして、紙の下半分のサインしたところを切り取って持って行きました。封筒のほうは、2種類のPINとPUK(PINを3回間違えてロックされた時に解除するのに使う)が書かれており、曰く、PIN1のほうは4桁の数字で、本人識別のために使うもので、PIN2は5桁の数字で、電子署名をするときに使うものなのだそうです。

紫の箱にはカードリーダーが入っており、USBコネクタを引き出し、カードを読み取り部がマイクロチップに当たるように挿入すると、それをコンピュータに接続すればカードの情報が読み取られるようになっているとのことです。

Card reader

PCでもMacでもOKとのこと。

正直なところ、今のところエストニアに住むつもりもなくエストニアで仕事をするつもりもなく、このカードで何をするという計画もないのですが、やってみたいのはエストニアの銀行口座を作ってユーロ圏に自分の貯金の一部を移転することだけなのです。このカードを使って何をするつもりかと訊かれたのでそう伝えると、今のところはマネーロンダリングやテロ資金への利用防止のためエストニアの銀行はオンラインの口座開設は認めておらず、直接出向かなければならないこと、口座開設にはエストニア国内に住所があることが求められると言われました。ただこれについては改善するよう交渉中とのことでした。もしリアルな住民だけでなく電子住民にも銀行口座が簡単に開けるようになれば、エストニアにとって資金が大量に流れ込む絶好のチャンスなのにと思いますね。

Books on Estonia

大使館の去り際に、エストニアを紹介する雑誌やパンフレットなど一式いただきました。いつかエストニアに行って、できることなら銀行口座を開いてみたいものです。


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