個人の発言に所属組織はどこまで責任を負うべきか

昨日のエントリでも紹介したネイサンズ「きんもーっ☆」事件だが、この事件の本質は大きく分けて次の2点に集約されるだろう。

  1. バイト個人がコミケ参加者を指して「オタ」呼ばわりし、自分のブログで「恐い!きもい!」等と発信した件について
  2. そのバイトを雇っていた企業にどこまで責任があるか

このうち1については、個人ブログ上でのこととはいえ特定の層の人間を貶める発言は感心しないのは当然だし、なによりも勤務時間中に携帯カメラで写真を撮り、バイトとはいえいやしくも客商売をやっている人間が客を含む人間を指して嘲笑するということは、決して許されることではない。叩く方もいささかやりすぎの感は否めないものの、その気持ちは理解できなくはない。
一方、2について、たまたま雇ったバイトが自分の会社名を出して問題を起こしたとき、その雇い主はどこまで責任を負うことになるのだろうか。今回はそこに焦点を絞って考えてみたい。

ネイサンズ「きんもーっ☆」事件
ホットドッグなどを提供する米国Nathan’s社の日本法人であるネイサンズ・フランチャイジー・オブ・ジャパンが、8月13日・14日両日にかけて行われたコミックマーケット(コミケ)会場近くで屋台式の移動店舗を使ってコミケ客を中心にホットドッグ等を売っていたところ、そこのアルバイト女性の1人が、自分のバイト先の内部の情況や客として来店するコミケ参加者らを携帯カメラで撮影し、それを「まぁお客はみんなオタ」「大量オタ。これほんの一部ですからね。これがぶぁぁぁぁあっているの。恐い!きもい!」などというコメント付きで自分の個人ブログで紹介したところ、それがたまたま目に留まったコミケ参加者らを中心に2ちゃんねるで祭り(急激な話題沸騰)状態となり、そのバイト女性へのバッシングと、彼女を雇っていたネイサンズ・フランチャイジー・オブ・ジャパンに対し批判が続出。ネイサンズへの抗議メールなども殺到し、社長をも巻き込んだ大騒動となった。そのバイト女性が別のエントリで「もえるるぶ」を指してコメントした「きんもーっ☆」は一時流行語に。詳しくはまとめサイト参照。

fjなどのネットニュースが全盛期だった時代には、投稿者は実名と所属を明かして投稿するのが当たり前だった。投稿記事の書き出しには「○○@△△大学です。」のような自己紹介文が必ずあって、ネットニュースとは学歴・職業自慢の場かとも思えるような状態だったのだが、そこでの発言内容はあくまで発言者個人のものであって、その所属する組織の見解ではないというのが、参加者の共通認識だった。
もちろん発言内容に反対する人がいてフレームウォーに発展することもまれではなかったが、攻撃対象はあくまでその発言内容そのもの(あるいは発言者)であって、その所属組織としての見解についてまで追及されることはなかった。もしそんなことをしたら、逆に攻撃者のほうが「ワナビー」だの「田舎者」だのと嘲笑を受けただろう。
こういった考え方からすれば、今回の事件でネイサンズに抗議した人たちは、抗議する対象を間違えているといえるだろう。あくまで非はこんな思慮不足の内容を嬉々としてアップしたバイト一人にあるのであって、その内容がネイサンズ自体の見解ではないことはもちろん、むしろネイサンズ側は自社の名前を勝手に出された上にイメージダウンまでされた、被害者というべきだろう。
企業の管理責任について問う声もある。このようなバイトを採用した企業に責任はないのか、ということなのだが、バイトとして雇われる人の個人的な嗜好や、思想、信条などをいちいち採用時にチェックすることは現実的でないし、またそれら理由に採用を拒否することは、許されないことである。勤務時間中に仕事の手を休めて写真を撮っていたということについては、あくまで労務管理上の問題であり、会社とそのバイト個人との間の問題である。その写真を見た客が会社に対して抱くイメージがダウンするということはあるかもしれないが、税金で養われている公務員が仕事をサボッているのとは違い、気に入らなければそこで買わないようにすれば済む話であって、それと会社の責任問題とは別物だろう。
つまり、この問題については、企業側には責任はない、とみるのが自然ではないだろうか。
さて、この件について、ネイサンズでは社長名で以下のようなコメントをウェブサイト上に発表した。

ネイサンズのお客様へ
いつもネイサンズホットドッグをご愛顧いただき、誠にありがとうございます。
さて、先日、お客様を不愉快にさせてしまいました、「コミックマーケット」に出店したネイサンズ移動店舗内スタッフによるブログ上の発言につきまして、以下の見解をお伝えしたく、ご一読いただければ幸いです。
「人種の坩堝」ニューヨークから来たネイサンズは、様々な国籍・価値観をお持ちのお客様に長年愛され続けています。
その企業体質は当然わが国におきましても継承されるべきものであり、私共、株式会社ネイサンズフランチャイジーオブジャパンも日々努力しております。
従いまして、今回の件につきましてはきわめて遺憾であります。
「コミックマーケット」をはじめとし、各地で行われる様々なイベントへ積極的に参加させていただいている現状、それぞれのご当地、お客様に歓迎されている現状を省みますと、いかんともしがたい胸中です。
調査の結果、本件は当社ブランドを使用する「フランチャイズ」企業が独自に雇用したアルバイトの極めて不適切な表現が引き起こした事態であり、当社の企業コンプライアンスとは正反対の内容です。
また、当該ブログにつきましては、当社との関わりはまったくございません。
しかしながら、「フランチャイズ」企業を管理・監督する責務をもつ当社といたしましては、本件に類する自体の再発防止に全力を尽くし、お客様から失った「信頼」を取り戻すべく、社員一同、努力いたします。
以上、簡単ではありますが、当社の反省と今後の決意を述べさせていただきました。

2005年8月
株式会社ネイサンズフランチャイジーオブジャパン
代表取締役社長 竹内秀樹

騒ぎが大きくなりすぎたために何らかの対処を求められたことを受けてのコメントだが、「今回の件につきましてはきわめて遺憾であります。」とは書かれているが、謝罪は一切していない。「調査の結果、本件は当社ブランドを使用する「フランチャイズ」企業が独自に雇用したアルバイトの極めて不適切な表現が引き起こした事態であり、当社の企業コンプライアンスとは正反対の内容です。」「また、当該ブログにつきましては、当社との関わりはまったくございません。」という文から、あくまで今回の一件はバイトが勝手にブログを書いたもので、企業には責任はないと言っていることがわかる。ただ、道義的な面で顧客との信頼を取り戻すために「本件に類する自体の再発防止に全力を尽くし、(中略)社員一同、努力いたします。」と述べているに過ぎないのである。
とはいえ、昨今のセキュリティ意識の高まりもあり、企業としても従業員の情報発信を野放図に放置することも、だんだんできなくなりつつある。この手のトラブルを避けるために、あらかじめ従業員に対し、情報発信に関する覚書のようなものを取り交わすという事態もこれから考えられるかもしれない。国家や社会の制約から外れ、治外法権的に自由にものが書けるのがインターネットの大きな長所の1つだったが、それらも徐々に制限されて、息苦しいネット社会になる時代も、近いかもしれない。

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【2005/09/09追記】

情報発信に対する制限を従業員に厳しく強いる業界がある。そう、航空業界だ。特に、客室乗務員(CA)関連のWebサイトに対しては、会社側によって厳しく監視、制限が行われているという。こちらにエントリを起こした。

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One Reply to “個人の発言に所属組織はどこまで責任を負うべきか”

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