翻訳入門

辻谷真一郎「翻訳入門」を読む。プロの翻訳家を目指す人のための、翻訳の考え方と実践方法についての解説書である。この本は単なる翻訳の技術の指導書ではなく、英語を日本語に翻訳するにあたっての考え方、心構えから説いている。

著者は、翻訳とは「日本人ならどう言うか、どう書くか」を基本とするべきだと説く。たとえば、I am a teacher. という文をどう訳すか。受験英語に慣れた感覚で見ると、「私は先生です」という訳にしたいところだが、普通、日本人が自分のことを「先生」と言うかどうか。「私は教師をしています」と言うのではないか。いや、もっと簡単に「教師をしてます」で良い。要は、英語の翻訳だからといって〈よそいきの日本語〉を使うのではなく、我々が本来使っている日本語を使って表現するべきなのだということである。

著者は、この手法をバドミントンになぞらえて説明する。バドミントンでは、シャトルをラケットで打つとき、ラケットの面を相手のコートに向け、シャトルとラケットを同時に見ながらラケットをシャトルに当てていく方法が最も簡単である。それに対して、包丁を持つような握り方でラケットを持って打つ方法があり、このフォームは物を投げるときのフォームに近いため、前者の打ち方よりも強い球を打つことができるので、実戦向きである。その代わり、この「包丁持ち」は、うまくなるまでは空振りが多い。そのため、いざコートに立ってシャトルを見ると、ついつい当てなければと思う気持ちから、前者の「フライパン持ち」になってしまうことが多い。

翻訳でも同じことで、英文をそのまま逐語訳していくやり方が「フライパン持ち」にあたる。簡単だし、とっつきやすいのでついついそのようにしたくなりがちだが、そのような癖が一旦ついてしまうと、あとで矯正することがむずかしくなり、途中でいつか壁にぶちあたることになりかねない。翻訳家として世に出るためには、最初は空振りしても、失敗しても、ひたすら最終的にめざすゴールだけを考えて練習しなければならない、それには著者の提唱する「包丁持ち」、つまり最初から本来の日本語で表現するように翻訳する練習を積む以外にはあり得ない、と説いている。

「コンピュータのオペレーティング システム、ソフトウェア プログラム、およびハードウェアの利用可能な最新の更新を入手してください。Windows Update は、コンピュータをスキャンしてお使いのコンピュータのためだけに選ばれた更新を提供します」などと平気な顔をして書いているどこかの会社の担当者に、この本を読ませたくなった。

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